素直で無邪気で優しくて嘘つきなリーグ職員さん
scene1/チリ狙いのヤンデレちゃん03※グロ※完
もしもし。
「あ、繋がった? おはよう、メドヴィク」
「全裸で寝るのはやめたほうがいい? はは、家族もそう言うの。でもねえ、やめられないんだから仕方ないじゃない?」
「そうそう、お菓子が食べたい人がいるの」
「うん。お願い。美味しい"メドヴィク"を差し入れてあげて」
「え、私?」
「私はちょっと早めにメインディッシュをいただこうかと思って」
「あら、メドヴィクも食べたかった?」
「嫌? そうね、メドヴィクだって、そっちで手一杯だろうし……忙しかったかな」
「今は暇? よかった」
「うん。じゃあ、リーグまで来てくれる?」
「道は分かるでしょう? メドヴィクなら大丈夫なようにしておくから」
「ふふ、人脈って便利ね」
「またね、メドヴィク。今日の午前中に頼むわ」
電話が切れた。
「信じらんない!!」
リーグの面接室に声が響く。面接官のリーグ職員が顔を顰めた。
「ですから、ジムバッジが、」
「そんなものめんどくさい! 早くチリちゃんを出して! 今日こそ恋人になるんだから!」
「リーグは恋人紹介所ではなく、」
「知らないわよそんなこと! アンタ本当にヤボったくてうざったい! クソジジイ! チリちゃんを出せ!」
「あの、」
「なに?!」
少女が振り返る。黒髪が揺れた。腕の中のイーブイがカタカタと震えている。
リーグ職員に付き添われて、不機嫌そうなチリが立っていた。少女はリーグ職員を見て、わなわなと震える。
「アンタ退きなさいよ! チリちゃんの隣はあたしのものなんだから! 媚びでも売ってるんでしょ! この、」
「あのう、」
は、と誰もが目を見開いた。修道服を着た女性がリーグ職員に案内されて立っていた。修道服にはアルセウス教会の印がある。
突然の来訪者に皆が唖然とする。少女は修道女の登場に目を白黒とさせていた。
「は、アンタ、誰」
「あの、お届け物をお渡しに来たのですが」
「あたしに?」
「いえ、チリさんに」
修道女はたおやかな手で、籠の上の布を取る。
「"メドヴィク"というお菓子です」
どうぞお食べくださいませ。微笑んだ修道女に、少女は唖然としていた顔に憎悪を浮かばせた。
「アンタ、転生者ね! あたしのチリさんに媚びを売ろうなんて最低!」
そうしてイーブイを床にべちゃりと投げ捨てて、修道女の首元を掴み、平手打ちしようと手を振りかぶった。
のである。
ドカッ
「うーん、小物!」
少女の首元を小型のハンマーで、私が、叩く。一度、二度、三度、四度。いくらこのポケモン世界基準となった人間でも、急所を複雑骨折すれば死ぬだろと、何度も殴る。
血が出たが、思ったより少ない。後片付けが簡単で助かる。倒れた少女を足で蹴って転がす。顔をハンマーで殴る。べしゃ、と鼻が潰れた。
「メドヴィク、これ死んだ?」
「死んだんじゃない? これで生きてたら、相当痛いわね」
「痛いの? よく分かんないや」
「カントゥッチは愛されて育ったものねえ」
「ごく一般家庭だよ!」
「そうね」
また殴る。叩く。頭蓋骨を破壊して、背骨を折って。目玉が飛び出たなあと転がるそれをチラッと見た。
なお、その間、チリとリーグ職員はぼうっとしていた。メドヴィクの後ろにはルカリオが控えていたのだ。ルカリオの波動って便利だなあ。私のデンリュウのリュトだって、電気技で周囲を気絶させることは出来るけれど、ルカリオの波動は心理に作用するから不思議かつ便利だ。
まあでも、リュトが一番素敵なポケモンだけどね!
「メドヴィク、これ、回収頼める?」
「ええ、そのために来たもの。はい、はちみつケーキ」
「ありがとう! これ美味しいよね。皆で食べるよ」
「ええ、そうして頂戴」
メドヴィクは死体を何度かに分けて、トレーナーなら全員が持つ不思議な鞄(四次元ポケットか??)に入れ、全て回収すると、微笑んだ。
「では、私はこれで」
「はぁい! ありがとうメドヴィク! 大好き!」
「ふふ、ありがとう。私もカントゥッチが好きよ」
そうして修道女は潜んでいたルカリオと共にその場を去った。
残った血や肉はないか、丁寧に確認していくのも忘れなかったところが、本当に職人気質で素晴らしい性格だと思う。
「ん、あれ……」
チリやリーグ職員たちが波動の支配から抜け出して来たようだ。混乱している今のうちに、と私は言った。
「すみません! お友達からメドヴィクをいただいたんです! 早く食べてもらいたくて、面接室に来てしまって、ごめんなさい!」
「あ、ああ構わないよ。貴女はここの職員だろう。なあ、チリさん」
面接官をしていた老年の職員がチリを見る。チリはそうやねと米神辺りを揉んでいた。ふむ。やはり不穏因子たちが執着しがちな人間なだけある。
「ところで、ほのかさんをご存知ですか?」
ちらりと聞けば、チリは眉を寄せた。
「ほのか? 誰やそれ」
「ご友人かい?」
「いえ、弟が課外授業中に会った人だそうで……他の地方に旅立つとか何とか」
「ふうん。それで、そのヒトがリーグに関係あるん?」
「いえ! 思い出作りにリーグを見にくる方もいらっしゃるので、来たかなあと」
「来とらんわ。せやろ?」
「は、はい! その筈です」
「ほらみィ」
チリの気のない顔に、私はふふっと笑う。
「そうですね、私が気にしてしまっていただけみたいです」
職業柄ですかね、と小首を傾げれば、チリが胡散臭そうに冷ややかに見てくる。うわ、美人のぜったいれいど、こわい。
チリの態度に、慌てて職員の先輩が言う。
「そうだ、シキさん、めどいくって何だい?」
「メドヴィクですよ、先輩! つまりは、はちみつケーキです」
甘くてとっても美味しいんです。そう笑う。職員達が、時間があるから差し入れをいただこうかと、席を立ったり、茶を淹れたりする。私はケーキを分ける。チリに渡す際に、くい、と手首を持たれた。
思わぬ接触だ。きょとんとすれば、チリは険しい顔で私を見ていた。
「何か、自分、」
「私はいつも通りですよ?」
「ちゃうねん、そうやなくて」
チリさん。そう、願いを込めて告げた。そう、この願いは、チリへのものではない。我らが愛する神さまへの献身だ。
「私、メドヴィクが好きです」
緑の目が蕩けるのを感じる。心が高揚するのを感じる。私は胸が神さまへの愛で満たされるのを感じる。
正しいとか、正しくないとか。ダメなこととか、ダメじゃないこととか。そんな事は分かっている。でも、それ以上に、幸福なのだから、いいじゃないか!
「……さよか」
チリはそうして赤い目を伏せて、私の手首から手を離したのだった。