◎悪夢と前兆、コーヒーのにおい
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掌編/🌱🏛/悪夢と前兆、コーヒーのにおい
夢をみる。夢をみる。
夢を、夢を、あの日あったことを。
終わりの始まり。カーヴェの時はそこで止まる。
本当はどうすればよかったのか。
願わなければよかったのだ。
自分さえ、望まなければ。
目が覚める。深夜だった。カーヴェはそっと寝台を出て、隣の部屋に向かう。アルハイゼンの部屋だ。
アルハイゼンはカーヴェが悪夢に魘されることが多いとすぐに気がついて、悪夢を見せさせない方法など無いが、喋り相手にはなってくれると言っていた。
カーヴェとしては喋り相手じゃなくて、ただそこで寝ていてくれるだけでよかった。人の呼吸音がするだけで、よかった。
アルハイゼンは静かに寝ている。ヘッドホンは外していた。珍しいことだが、カーヴェが魘された夜にアルハイゼンの部屋に行くと、よくヘッドホンが外されていた。
わかるものだろうか。何か、前兆でもあるのだろうか。だったら教えて欲しいものである。でも、アルハイゼンなら教えないのかもしれない。だって、カーヴェならもしその前兆があったら寝ずに仕事をする。
「カーヴェ」
「あ、起きたのか」
アルハイゼンが起き上がる。くしゃりと頭を掻き混ぜるから、カーヴェは勝手知ったる彼の部屋のブラシでさっさっと髪を直した。
「本を持ってくる」
「別に寝てていいんだが」
「話したい本があるんだ」
気の使い方が間違っている。きっとアルハイゼンが持ってくるのは難しい本で、こんな夜中に読んで議論をまともに交わせるようなものではない。アルハイゼンはカーヴェがその本を読む間、きっと律儀に茶と茶菓子を用意する。スメールの学者たちの定番だ。
やがて持ってきた本は天が定める運命についてのもので。やけに哲学的だなと苦笑した。
「読むよ、時間をくれるかい」
「いくらでも。夜は長い」
コーヒーでいいか。アルハイゼンの言葉に、カーヴェはこくんと頷いて、ラグの敷かれた床に座ってパラパラと本を読み始めた。
07/29 18:38