◎涙のリスク


アルカヴェ/にょたゆり


 カーヴェの泣き顔はあまり見たいものではない。ぽろぽろと泣く彼女に、アルハイゼンはそっとハンカチを差し出す。受け取ろうとしない様子に、アルハイゼンは仕方なく彼女の目元をハンカチで軽く押さえた。
「いらない」
「なぜだ」
「僕に構うな!」
「このままだと、きみは明日になったら泣き腫らした顔で喚くだろう」
「そ、それは」
「ただのリスク管理だ。明日は打ち合わせがあるだろう」
「なんで知ってるんだよ」
「噂程度にな」
「普段そんなもの真に受けないくせに?」
「たまには役立つさ」
 それに、とアルハイゼンは言った。
「きみの反応を見るに、正確な噂だったらしいからな」
「あーもう! 分かったよ!」
 ごし、と目元を荒く拭おうとするので、アルハイゼンは彼女を押さえ込んだ。は、と目を丸くするカーヴェの目尻に浮かぶ涙をべろりと舐めた。
「は、は?!」
「この程度で赤面するな」
「無茶言うなよ! やめ、舐めないで、よしてくれっ」
 カーヴェがあうあうと反抗するのを気にせず、アルハイゼンはひとしきり涙を舐めとると、ちうと唇に吸い付いた。
 そのまましばらくキスを繰り返して、すっかり形無しになったカーヴェの上から退いた。
「はう、なに、」
「これでいい」
「そりゃ、もう、泣いてる場合じゃないけどな?!」
「あとは風呂で温めてこい。頭痛までしたら厄介だ」
「わかったよ」
 カーヴェは深いため息を吐いて、のろのろと起き上がり、風呂に向かったのだった。


12/08 22:32
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