◎一夜の過ちと逃亡@書きたいシーンだけ


アルカヴェ/一夜の過ちと逃亡/中途半端に終わってます。書きたいシーンだけ書きました。


 目が覚めたらアルハイゼンとベッドの中にいた。絶対、なにかあった。カーヴェは痛む腰に察する。なんなら、記憶もある。酒に酔ってすらいなかった。ただ、互いに疲れてはいたと思う。ボタンを掛け違えたんだ。カーヴェは理解する。
 彼を間違えさせたのは、自分だ。

 それからのカーヴェは早かった。手早く必要なものをまとめて、ドリーの元に向かう。借金の話をして、かき集めたモラを手渡して、しばらく待ってもらう。
 仕事は大きな案件が終わったところなので、たまたま空いていた。だからこそ、疲れきっていたのだ。

 璃月に行くという荷馬車に乗せてもらい、スメールを出た。

 璃月港に向かうと、前から依頼の話があった旅宿に向かう。改装の案を頼まれて、カーヴェは働くことにした。

 しばらく、アルハイゼンから離れて、気持ちをリセットしたいのだ。彼はきっとなんともない。カーヴェだけが、不安であるはずだ。

 せっせと働いて、案件を細々と片付ける。派手に動くと、アルハイゼンに見つかるかもしれない。そう思っていたのに。
「カーヴェ、ここにいたか」
「は?」
 七日後、アルハイゼンが旅宿に訪ねてきた。

「いやきみ、なんでこんな所にいるんだ!」
「休暇を申請した」
「なんでだ!」
「きみが居なかった」
 アルハイゼンは淡々としている。
「きみがスメールにいるなら、休暇は取らなかった」
「はあ?!」
「きみに聞きたいことがある」
「なにを」
 彼は、ずいと近寄った。離れようとすると、腕を掴まれる。
「そこまでして、俺から離れたいのか」
「それは、まだ考えてなかったけど」
「ならば、何故、スメールから出た」
「心を切り替えたくて」
「切り替える?」
「割り切りたかった。それだけだ」
「何を割り切るんだ」
 淡々と、している。
「俺を捨てるのか」
「捨てるってなんだよ! きみは被害者だ。怒るなら怒れよ、僕が悪いんだから!」
「きみの何が悪いんだ」
「言いたくない。気持ち悪いだろ」
「何がだ」
 ぎゅうと、腕を掴む手が強くなる。痛いけれど、アルハイゼンの表情の方が、痛そうだ。滅多に表情を動かさないから、殊更、そう感じた。
「なあ、アルハイゼン。きみは何も悪くないから、スメールにお帰り」
「きみの何が悪い?」
「きみと肌を重ねた」
 なあ、アルハイゼン。
「きみは健やかにあるべきだよ」
「きみの犠牲の上で、か」
「僕が犠牲になるんじゃない。僕が悪だ」
「合意だった」
「そんなわけないだろ!」
「認識の齟齬がある」
「違う。僕が悪い」
 ぎり、と腕を強く強く掴まれた。
「ごめん。でも、許さないでくれ」
 顔を俯かせたら、アルハイゼンが腕を引いた。とん、と胸に寄せられた。カーヴェはそれ以上動かない。口を閉ざした。
「許すも許さないも、何でもいい」
「……」
「だが、せめてスメールに居てくれ」
 答えないでいると、アルハイゼンは言った。
「俺はきみが、」
「僕はスメールから離れるよ」
「……何故」
「それが最善だからだ」
 よく分かったと笑えば、彼は掻き抱く。
「やめろ」
「僕を嫌えよ」
「いやだ」
「嫌ってしまえばいいんだ」
「俺が合意だと言うことに何も思わないのか」
「その方が問題解決が早いからだろ。そうやって、僕の存在を飲み込まなくていいんだよ」
 そうだろう。


・・・


 起きたらカーヴェがいなかった。彼と肌を重ねた朝のことだった。彼には借金がある。ただ、仕事は一区切りついたと言っていた。アルハイゼンは仕事が立て込んでいる。それでも定時で上がって、カーヴェを探した。カーヴェを乗せたと言う荷馬車の話から、スメール国内に見切りをつけると、休暇を取るために仕事を調整した。そうしてカーヴェを見つけた時には、七日も経っていた。

 腕の中にカーヴェがいる。だが、カーヴェはアルハイゼンの言葉を、話を、聞き入れようとしない。
 自分たちは決定的に間違えたのだ。だが、あの夜、カーヴェを抱くことにしたのは、アルハイゼンの意思だった。カーヴェだって、疲れていても正常だった。酒もなかった。だからこそ、抱いた。
「きみが好きだ」
 カーヴェは何も言わなかった。


10/13 08:03
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