◎悪夢


アルカヴェ/悪夢


 飛べ、走れ。
「大丈夫、きみを守るよ」
 だから、僕の手を取れ、と。

 悪夢だ。アルハイゼンは目を覚ます。起き上がって、すぐに顔を洗いに向かう。冷たい水を浴びたかった。
 リビングではカーヴェが立っていた。机にコーヒーを置いて、メラックに図面を開かせて、あれこれ確認していた。
 あ、とカーヴェが気がつく。
「おはよう、アルハイゼン。きみ、どうしたんだ?」
「なんでもない」
「なんでもないなんて顔じゃないぞ!」
「うるさい」
 そう言いつつも、アルハイゼンは見つめてしまう。カーヴェが生きている。五体満足で、仕事をしている。この、家の中で。
「アルハイゼン、コーヒーを淹れようか」
「頼む」
 カーヴェはぽんとアルハイゼンの肩を叩いて、キッチンに向かった。その手が優しくて、アルハイゼンは長く息を吐いた。

 たまに夢をみる。カーヴェがアルハイゼンを守る、悪夢だ。学生時代でもあるまいし、彼に守られたくはない。アルハイゼンは冷たい水を浴びて、また息を吐く。
 カーヴェにとって、アルハイゼンはいつまでも年下の後輩だ。それはどうしようもない。二歳差の事実はどうしても変わらない。
 だからと言って、守られるのは嫌だ。特に、カーヴェは自分を殺して、他人を守る。それをアルハイゼンにも適用するなど、許せない。
 だって、だって!
「強く、なった」
 ほんとうに。

「アルハイゼン?」
 きみ、遅いぞ。
 そうして戸口から顔を出したカーヴェに、アルハイゼンはなんでもないと告げた。


10/02 20:09
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