LOG

 2016.01.24.Sun:23:36

第80回フリーワンライ企画様へ提出作品
使用お題:なごり雪/今宵貴方を攫います/真っ白な世界の優しさに/暗いお部屋の中/気違いのお茶会
ジャンル:二次BL
CP:うぐしし
タイトル:待つ人
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負


 降り注ぐ日差しの中。真っ白なテーブルクロスが目に痛い。青い装飾がされたティーカップに注がれる紅茶は真っ赤な色をしていた。
 どうぞ。目の前の男がそう言った。紅茶の隣にはハムとチーズのサンドイッチ。白い皿にのせられたそれを持ち上げて口に運ぶ。真赤な紅茶はどうにも飲む気になれなかった。
 目の前の男が笑った気がした。
「今日の夜、待ってるといい。」
 どうやら最後までは言ってくれないようだ。


 目が覚める。締め切っていて薄暗い部屋の外が少々不自然に明るいように見える。布団からそろりと抜け出せば芯まで染みるような寒さがまとわりついた。それでも障子戸に手をかけて、よいっと開けば見えたのはまばらに残った雪の集まり。昨日降った雪がまだ残っているのだとわかった。
 残っているのは雪かきをして、雪を集めた場所らしい。雪というより氷となったような塊を、蛍丸と愛染が棒を使って壊して遊んでいた。違う場所では粟田口の短刀たちが何とかして雪だるまを作ろうとしていたり、雪を投げて遊んだりしているようだ。
 朝から元気だなあと思いながら、着替えを済ませて布団を片付け、顔を洗いに部屋から出た。
 手拭いを持って歩いていると、途中で一期一振に会った。沢山の手袋とマフラーを抱えていて、どうやら弟たちに配るらしい。昨日配給されたものはまだ乾いてないのだとかで、防寒具無しで彼らは遊んでいるらしい。元気だなとしか言えない。
 本丸に散らばっている弟たちを探して走り回っているらしい一期に労いの言葉をかけて、俺は再び歩き出した。

 顔を洗ったらそのまま台所に向かう。朝食の手伝いを申し出れば、ありがとうと感謝され、食器並べを頼まれた。ところで本日の食事当番は加州と大和守のようだ。わいわいと朝から台所は賑やかで、何だか本日も平和な1日が過ごせそうである。
 朝食の手伝いは俺以外に堀川国広と五虎退もいた。五虎退は雪遊びをしないのかと問いかければ、口籠っていた。怪しいなとなるべく優しく聞き出せば、どうやら昨日の雪遊びで足首を痛めたらしい。手入れを受けていないことも発覚したので堀川が主の元へと連行していった。本人は雪遊びで盛り上がる兄弟に水を差したくなかったらしいが、多分逆効果にしかならないのではないだろうか。さっき一期一振が走り回っていたのは五虎退を探し出せてなかったかもしれないなあと、兄弟の怪我に気がつかないわけがなさそうな粟田口兄弟の仲の良さを思った。
 朝食が出来上がると殆どの刀が食堂に集まっていた。いない刀を主自ら起こしに向かい、そのお供には鳴狐と平野がついていった。鳴狐、というよりそのお供の方が活躍するかもしれないと少し失礼な事を思いながら席を探す。食事の際の席順については主以外は決まっていないので毎回好きなように皆が座る。俺はどうしようかと食堂を見渡して空いている場所を探せば、どうやら蜂須賀の隣が空いていた。近寄って許可を得てから隣に座り、浦島はと聞けば今回はどうやら脇差仲間と集まって座っているのだとか。少し寂しそうな蜂須賀にそれとなく他の話題を提示して会話していると、しばらくしてから本丸に所属する全員が食堂に集まった。まだ温かいご飯を前に、主の号令で挨拶をしてから食事が始まる。
 白菜の味噌汁を飲んでいると向かいに座っているのが鶯丸だと気がついた。寂しそうな蜂須賀に気をかけていたので気がつかなかったなと茶碗を置いて手を振れば、気がついたらしい鶯丸が微笑んで手を振り返した。それで気が済んで食事を再開すれば、目敏く気がついた蜂須賀に仲が良いのだねと言われた。まあそうだなと返事をしてまだほのかに温かい卵焼きを口に運んだ。

 朝食を済ませると主から本日の部隊が発表される。俺は非番だと分かり、今日は何をしようかと考えを巡らせた。そろそろと考えていた鵺の風呂は寒いだろうから延期にするとして、他にやりたい事は特にない。買い物はこの前の非番で済ませたし、主がおすすめしてくれたゲームは一通り遊び終えている。
 さてどうしようかと思いながら朝食の片付けを手伝い、本丸の中をふらふらと歩く。非番の刀たちはそれぞれ、粟田口なら名残り雪で雪遊び、脇差ならトランプ大会、伊達の三振りの場合は畑当番とその手伝いといった様子だった。そういえば全員が非番らしい三条派は何やら本と紙と筆記具と、それからサイコロで何か遊んでいるらしかった。加わろうとしたら何やら設定がとか初心者向けではないとか何とかで加わらせてもらえなかった。謎である。

 ふらふらと歩いていてもどうやら何かが見つかるらしい。鶯丸が部屋から顔を覗かせた。来るといいと言われたので部屋に入れば、主が導入したストーブを焚いて茶を飲んでいたらしい。茶菓子があると言って机の上の饅頭を一つ手に乗せられる。茶碗は二つで、元々誰かを誘うつもりだったらしい。
 茶を啜り、饅頭をかじる。ぽつぽつと会話をしていると何だか心がざわざわとした。鶯丸が口を開く。
「どうした。」
「いや、別に何でもない。」
 そうやって話題を逸らそうとしたが、刀はじっと俺を見る。その様子にまた心がざわざわとざわめいた。
「獅子王。」
「なんだよ、鶯さん。」
 返事をすればまた黙る。何だか様子がおかしいなと思ったが、それよりも心がざわざわとして落ち着かなかった。なぜだろう、茶碗の中が赤いような。
「獅子王。」
 男は口元を柔らかくして微笑んでいた。でも目はしっかりと俺を とらえて いる。
「今夜……」
 途中で空に消えた言葉。そのちぎれた台詞に、如何してかその続きを長いこと待ち望んでいたような気がした。



- ナノ -