LOG

 2016.01.22.Fri:23:07

第50回フリーワンライお題で自主練させていただきました。
使用お題:両片思いの中間地点/月とチーズケーキ/不揃いの豆/息ができないほどに、囚われる/白雪姫
ジャンル:二次BL
CP:じじしし
タイトル:手の先
#真剣文字書き60分自主練編
片思いの話。


 不揃いの豆があるとして、それらは全て問題のない、似たような味がするはずだ。でもそれはこれとは違う話なのだろうけれど。
 三日月が俺の部屋にやって来た。その手には盆に乗った二つの皿、その上にあるのは白いもの。主がくれたのだと笑う三日月は上機嫌で、どうやら今日も賭けに勝ったらしい。
 お八つを賭けてやるなよと言いながら立ち上がる。茶がないので用意してこようと思ったのだ。ついでに仕舞ってあったちゃぶ台を組み立てて置いておく。これで食べる場所に困らないだろう。
「緑茶でいいか。」
「うむ、それが良い。甘そうに見えるからなあ。」
「分かった。それじゃすぐ淹れてくる。」
「急がなくてもよいぞ。」
「んー。」
 三日月はそう言ったが俺は急いで台所へと向かう。台所では燭台切と歌仙が働いていて、やあと声をかけられた。緑茶を淹れたいと言えば全て分かった様子で二人は笑って場所を空けてくれた。
 この本丸のお八つは燭台切と歌仙、加州の三振りで作られている。今は加州がいないが、おそらく遠征に出ているのだろう。朝の部隊表が確かそうなっていた。話を戻そう。この本丸のお八つはその三振りが作っていて、しかもこの本丸においてその三振りは調理に対して特に意欲と関心の高い刀だったりする。結果、いつの間にかこの本丸では様々な料理や菓子が出回ることになっていた。
 そういえば今日のお八つは何だったのだと聞いた。言葉を拾ったのは燭台切で、食べてないのかいと不思議そうにしていた。鵺を風呂に入れていたらもらいそびれたのだと伝えれば、教えてくれれば良かったのにと苦笑された。それで、と俺は問いかけた。あれは何なのか。
「チーズケーキだよ。」
「ちーずけーき。」
「ほらあのチーズを使ったケーキね。珍しいチーズが手に入ったからどうせならってケーキにしてみたんだ。料理にもお菓子にも使えるんだって。」
「へえー。じゃあ白いのはあれか、えっと、生クリームってやつのせいか? 」
「生クリームもそうだけれど、チーズ自体も白かったよ。」
 綺麗だったでしょうと楽しそうに言われて、まあ確かにと頷いた。まだよくは見てないけれど、ちらと見えた白色は確かにと美しかった。
 緑茶を淹れ終えたのでそれじゃあと台所を出れば、できたら感想をくれないかと歌仙に言われたので勿論だと返事をした。

 部屋に戻るとちゃぶ台に二皿のお八つをちゃんと置いて三日月が待っていた。俺に気がついて獅子やと笑った三日月はやけに嬉しそうで、ちょっと不思議に思った。
 盆を置いて湯呑みに入った緑茶をそれぞれの位置に置いてから向かいに座り、白いケーキを前にする。二人で手を合わせ、いただきますと声を揃えて挨拶した。

 銀色のフォークを手に取り、その尖った先を三角のケーキの、その角に立てる。するりと銀色は通り、底の方でサクと音がした。クッキー生地があるらしいと感じながらフォークを持ち上げて一口分のケーキを持ち上げる。ほろりとこぼさぬように口へと運び、口内に入れた。口を閉じてフォークを引き抜き、何度か咀嚼すると広がるのは豊かな甘み。そしてほんのりと香ったのは柑橘類の香りだった。これは確か、そうだ、オレンジという果物の匂いに似ている。
 向かいに座る三日月を見れば嬉しそうにケーキを食べていた。ちまちまと食べてはたまにフォークを置いて湯呑みを手にとって緑茶を啜っていた。美味しいかと問いかければうむと返事された。
「獅子王はどうだ? 」
「美味しいと思う。」
「そうかそうか、良いことだ。」
 やけに上機嫌なので疑問に思いながらまたケーキを口に運んだ。甘くて美味しい。苦い緑茶がなかなかよく合う。

 時折会話をしながら半分ほど食べ進めた頃だろうか。三日月が言った。
「獅子王は甘いものが好きだなあ。」
 そう言われて、俺は思わず首を傾げた。だって俺は別段甘いもの好きではない。余程俺が不思議そうにしていたのかそれとも単なる話の続きなのか、三日月は笑って語った。
「美味そうに食べるからな。」
 それはそれは美味しそうに、と。目を細めて楽しそうに言うものだから、俺は理由を言いかけて、やめた。だって言ったって仕方がないのだ。気まぐれなこの刀に告げたところで何も意味を成さない。ならば、言わなくたって何も変わらない。仕方ない、仕方ない。
 獅子王、そう名前を呼ばれた。顔を上げれば笑顔の刀がそこにいた。彼の皿はいつの間にか空になっている。早いなあと思った。もっとゆっくりでだっていいのになんて考えてしまった。心臓が痛くて、息が苦しい。肺がきしんで、とげとげとした痛みが増えていく。獅子王、また呼ばれた。
「白雪姫という童話があってな。」
 口付けを落とせば目覚めるか、なんて。俺はそんなものになりたくないのに拒否するための言葉が発せられない。喉がひりついて、喉の皮と皮がひっついてしまったようだ。ああなんて苦しい。苦しい。
「どれ、おいで。」
 手招く男に、俺は動けないでいた。だってこんなにも苦しいのだから動けるわけがないのだ。だからそんな気まぐれは止めて、その視線を俺から外してはくれないか。

 ふと、不揃いの豆を思い出す。大小様々な豆たち、皺の寄った豆、ハリのある豆。それらをこの男はどうやって選んでいるのだろう。
(味はきっと何にもかわりないのに。)
 この男は何を思って一粒を救い上げるのだろう。
 いつの間にか近寄ってきた男はやけに楽しそうだった。



- ナノ -