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 2016.01.08.Fri:23:34

第78回フリーワンライ企画様へ提出作品
使用お題:あなたの導き/宝石のような瞳が欲しい/染めてよ、もっと君色に/宵祭り/君の隣で窒息死
ジャンル:二次BL
CP:うぐしし
タイトル:本当はね。
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
鶯丸視点


 ぜんぶ、ちょうだい。
 夏の中、宵、祭り。祭りに行きたいとごねた主はなんと時を遡る門を使って夏祭りに出陣すると言いだした。焦った長谷部や燭台切が止めようにも主は全ての準備を整えてしまっており、大目玉を食らってもしらないからなと刀たちは出掛ける準備を大急ぎで行ったのだった。
 適当に着流しを着て、下駄を履いて。仰ぐために扇子を持って集合場所である門の前に行くと、獅子王がおういと声をかけてきた。見れば彼は仲の良い刀と話していたようで、そこから離れて俺の元へと駆け寄ってきてくれた。鶯さんもいつも通りでよかったと笑った彼もまた、町へ出かける際によく着る着流しに下駄だった。ただ、髪はくるりとまとめ上げられているので少々合わない。どうしたのかと問えば、どうやら加州がどうしてもと言うのでまとめ上げさせてあげたのだ、と。違和感はどこかと考えれば、髪型も一因ではあるが、どうやら簪がきらきらびやか過ぎるようだ。それならと獅子王の手を引いて部屋に連れて行く。なにやら驚いた声が聞こえるが、時間がないので仕方ない。途中で鶴丸と蛍丸に微笑ましそうに見られた。きみたちは明石の準備をしている愛染の手伝いに行かなくていいのか。
 部屋に着くと木箱から黒い漆の簪を取り出した。飾り毛の無いそれは獅子王にと仕立てたもので、訳あって俺が管理している。簪を見て察したらしい獅子王は背を向けて畳に座り、俺は近くに座ってその髪から簪を抜いた。趣味の悪い簪ではないが、獅子王の今の格好には合わないそれを丁寧に机に置いて、彼の髪を手早くまとめ上げた。黒い漆の簪に満足して、行こうかと肩に手を置けば、おうと獅子王は嬉しそうに応えた。

 急いで門に向かえば出発時刻になっていた。明石を引っ張る蛍丸の後ろで笑顔の鶴丸が疲れ切った愛染を労っている。おそらく祭りが楽しみだからこそ明石の準備をしたのだなと分かり、微笑ましくなる。蛍丸も鶴丸も何だかんだで役に立ったのだろう、単なる予想でしかないがきっと当たっている。
 長谷部が祭りでの注意事項を述べ、大雑把な班分けをすると最後に主が楽しもうぜ皆の者ォ!と叫べばノリのいい刀たちは応と叫んで応えていた。獅子王も隣で大声を出しており、彼を見れば頬を染めて楽しそうに俺を見上げてくれた。

 さて祭りである。宵の頃からが本番だというその祭りは多くの人が行き交っていた。同じ班の刀とはぐれたら門で帰って再度祭りに出発することと言われているので、多くの人が行き交うからと不安になることはない。しかしな、と俺は獅子王を見る。彼は年若い刀のような見た目をしているが充分成熟した刀だ。不安になることはないのだが大義名分を使う機会を失くすのは惜しい。祭り屋台に目を輝かせていた獅子王は俺の視線に気がついて見上げてきてくれた。だから俺は笑みを浮かべて彼へと手を差し出した。獅子王は目を丸くして、しばらく視線をうろつかせてから俺の手を握り、はにかんだ。

 班分けされたとは言うが、俺の所属する班は俺と獅子王の二人である。班分けというより単なる自由グループ作りなのだと主は笑っていた。要は一人じゃなきゃいいと。
 二人で祭りを回れることに少しばかり感謝しながら歩けば、獅子王はあれやこれや屋台に目移りしている。しかしこの祭りはどうやら少し様子がおかしく、時代がどうにも判別できなかった。獅子王はまるで寄せ集めだと楽しそうに笑っていたので、まあそういうことなのだろう。
 班分けので際に渡された財布の中身と相談しながら屋台の食べ物や小物を買う。獅子王は途中で俺の扇子が羨ましいからと扇子の屋台を覗いていた。結果としては気にいるものがなかったので代わりに鳥の根付を買っていた。

 獅子王の手を引いて歩く。獅子王は視線をふらふらと屋台に向けるので少し危なっかしい。転ばないならいいと思っていると、前方で派手に転ぶ石切丸が見えた。近くで青江と今剣が慌てながらも笑っていた。あの班にはあと岩融がいたと思ったがと考えているとそんな三人の元に戻ってきた岩融はりんご飴を四つ持っていた。買い出しだったようだ。
 同じように彼らを見ていた獅子王がりんご飴が欲しくなったと言うので向こうにあったと案内する。獅子王の分を購入してやると、お小遣いももらってるのに買ってもらうなんてと焦っていたが、俺にも一口くれればいいさと言えば顔を赤くして黙った。

 屋台の隅。チラチラと揺れる提灯の光が射すそこで獅子王はりんご飴にかぶりついた。赤い色が、提灯の橙の光と共に彼の目に映る。刃色の瞳はきらめく光と屋台やりんご飴の赤で華やかにきらめいていた。ぱくり、がぶり。獅子王はあっという間にりんご飴を食べ終えたが、なぜかその瞳から赤が消えぬようで、じっと見ていると不思議そうに見上げられた。きらきらと華やかにきらめく目を見つめながら、目が綺麗だと伝えれば、彼は少しだけ目を見開いて、何やら嬉しいような不満なような顔をした。何だろうと思えば、彼は染まるなら、と言う。
「緑の色がよかった。」
「そうか。」
 なあ、染めてと俺の手を握り、笑う獅子王に、そんなことは俺こそだと言おうとしてやめた。その代わりに彼の手を握り返して、笑い、その唇に口付けを落とす。離れれば甘い匂いが残った。獅子王を見れば片手を胸に当てて、頬を染めて切なそうに笑った。
「胸が痛いぐらいだ。」
 それぐらい愛しいのだと告げた刀に、俺の心も締め付けられるようだった。祭りの中、全てがまるで幻想のよう。非日常の世界は何て切ない心を増長させることか。明日だって、明後日だって。長いこと離れることは、もうしばらくは、無いと言うのに。
「なあ、目を、こっち見て、うぐいすさん。」
 祭りで華やかにきらめく瞳で、切なそうに俺を呼んだ刀に応えるべく、遠のいていた意識を戻して彼を見た。
 彼は俺のほおに手を滑らせ、嗚呼やっぱりだと言った。
「あなたの目が宝石みたい。」
 欲しいよと、言うきみの目こそ宝石なのに。



 からから、二人分の下駄の音。繋いだ手は指まで絡めあっている。遠のく祭囃子。宵祭りはもうそろそろお終いとすることにしよう。
「屋敷でのんびりするのも悪くない。」
 そう笑えば、心地よい肯定の声がした。



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