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 2015.12.19.Sat:01:24

第76回フリーワンライお題で自主練させていただきました。
使用お題:シャープペンシルで綴る愛憎/苦い口づけ、笑うキミ/絵葉書/煌めく夜空に零れる涙
ジャンル:二次BL
CP:うぐしし
タイトル:隠しきれなかったひとたち
#真剣文字書き60分自主練編
未成立、両片思い。獅子王さんが失恋しようとする話。泣いたのは鶯丸さんでした。ぼんやり女審神者がいます。


 きらきら、星空。
 水に濡らした筆をぐるりと動かし、水彩絵の具を溶かす。絵の具の種類はこの為のものだと主は言っていたけれど、どうでも良いのかもしれない事だ。だって描ければそれでいい。
 描くものは鵺にした。俺の一番身近な相棒をいろんな色を混ぜた黒で形作っていく。薄墨色に似た鵺は不恰好で格好つけたがりの刀が泣いてしまいそう。でも、愛着が生まれた。塗り残しで作った顔にはこれまた不恰好な顔を描いて、余白に少しだけ桜の花びらを散らした。筆に残った黒が少しだけ混ざった桜色は口に含んだら苦そうだ。
 空いている場所にはお手紙を書くのよ。そう主は言っていた。白いハガキの中に残った余白はそう大きくなくて、でもその余白に文字を書き込むことにした。
 文字を書くのはシャープペンシル。主の持ち物をずいぶん昔に見つめていたら与えてくれた贈り物。大切なその筆記具で大切な相棒の隣に細かな字を書いていく。たくさんの文字を書くつもりはなかった。でも、大きな字を書くほどの勇気は無かった。
 出来上がった絵葉書は不恰好で、色が少なくて、笑ってしまう。俺の世界はきっとこんなものなのだ。わずかな桜と、大切な鵺。言葉なんて消しゴムで消えてしまうから、それほど意味がないものだ。

 その絵葉書を持って部屋の外に出た。時間は夜で、きらきらと星が瞬く夜空は美しかった。秋や冬の空は冷たくて清々しいような気がして俺は好きだった。その中をあっちへふらふらこっちへふらふらと歩いて彼はどこかと探す。最初は渡すつもりなんて無かったけれど、出来てしまえば渡したくなった。彼へと綴った言葉は愚痴と恋情を綯(な)い交ぜにしたものだから決して綺麗な言葉じゃないけれど、彼に突き付けてしまいたかった。思えば、これは夜の魔力なのかもしれない。

 やっと見つけた彼は風呂から上がってきたところで、遅い風呂だと笑えば彼はすぐに気がついた。やあと立ち止まった彼に歩いて近寄った。一歩、一歩と地面を踏む。そういえば下履きも履かずに庭に降りてしまっていたけれど、それはきっと、今の俺にはどうでもいいことなのだろう。
「鶯さん、これやるよ。」
「絵葉書か。」
 知ってたんだと言えば、主が熱心に取り組んでいたからなと柔らかく言う。そう、だから俺も描いたのだ。
「その絵葉書さ、破って。」
「……。」
「その手で千切って。」
「そうか。」
 そうしたら、きっと。
 そんな事を言ってしまうのはきっと星がきらめく夜の魔力の所為なのだ。
「そうしたら記憶に残るだろ。」
 俺の大切な相棒と、不味そうな花弁と、きっと読めやしない文字が書かれていたことを。
 心の底からそれだけで充分だと思ったのだ。鶯丸という、大切な人を待っていること以外は分かりにくい刀がその記憶を片隅に置いてくれるだけで充分だと思ったのだ。長い片想いがそれで片付く気になったのだから、きっと片付けることが出来るということだ。可能性を考えられたのなら、それはきっと実行出来ること。

 黙って、笑顔を顔に乗せて彼を見つめる。寝ようとしていた時に描き始めたから俺の格好は寝間着で、晩秋から初冬に移ろうとする夜には寒かった。指先はきっと氷みたいに冷たくなっている事だろう。
「破らないさ。」
 鶯丸はそう言ってにこりと笑む。その穏やかな笑顔が場に似合わないと俺は笑いが込み上げた。
「もう俺のものだからな。」
 そうして一歩踏み出したものだから俺は一歩下がった。また一歩、こちらも一歩。彼は笑みを崩さない。俺もまた、込み上げてきた笑いを表面化した。クスクス、クスクス。俺の笑い声が庭に散って行く。
 そしてまた一歩と彼の歩みを確認した瞬間、彼が揺れた。走り出したのだ。嗚呼、捕らえられる。そうして掴まれた腕と上方にある頭に首を差し出せば彼は俺のうなじをいくつかの指先でゆっくり撫でた。それがくすぐったくて、でも水の中で腐った葉っぱみたいな気持ちで顔を上げれば、彼は笑みを浮かべたままだった。
「この花弁は苦そうだ。」
 きっと彼の手の中にある絵葉書のことだろう。でも、唇に落とされた口づけがどうにも苦い味をしていたものだから、この刀は相変わらず掴みどころのない刀だと目を閉じたのだった。

 きらきら。まぶたの裏には好む夜空と、不味い桜と、笑みを浮かべた彼がいた。見てたらぽたり。星が落ちて、滑って消えた。



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