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 2015.11.27.Fri:23:32

第73回フリーワンライ企画様へ提出作品『赤になれ』
使用お題:あい になるまで待って/無邪気なキミの計画性/ときめくキスより噛みついて/蕩ける現実/透明な想いを色づけたい
ジャンル:二次BL
CP:うぐしし
タイトル:赤になれ
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負


 燃えるような赤に誘発されたのかもしれない。
 季節は秋の頃。貯金が貯まったのだと嬉しそうに主が話していた次の日には本丸は秋の景色に変わっていた。つい昨日まで真夏だったものだから、あまりに変化が急すぎると近侍を務める歌仙が主に突っかかっていた。それもそのはず。急激な気温の変化により何振りかの刀剣男士が体調を崩したのだ。
 たかが何振りかだろうと侮ることなかれ。その何振りかというのはまず粟田口の短刀が三振り、この時点で一期一振が当面は部隊に加わらず内番もしないと言いだした。全力で看病に取り組む姿勢の一期だがそのやる気が空回りするのは目に見えていたので粟田口の兄弟たちはそのような一期の暴走を止めるために彼らもまた部隊にも内番にも関われない(集中できない)事態となった。次に蛍丸、彼はこの本丸における主力の大太刀であるので部隊の編成は彼が寝込んだ知らせを受けた時点で根本的に一から作り直すことを迫られた。ちなみに明石は蛍丸の隣でひたすら嘆いていたので看病の邪魔だと愛染に引きずられて部屋から出されていた。練度差がよく表れている。次に鶴丸国永、彼に兄弟刀はいないが、彼が寝込んだことで前日までに仕掛けられていた驚きの種つまりからくりの類が猛威を振るうことになった。普段は全てのからくりの類を把握して、驚きを与えつつも引っかかった刀の救出を真っ先にしているその彼がダウンするとどうなるか。前述通りに猛威を振るった。これにより怪我人や行方不明者の続出は、何よりも仕掛けを作った本人を凹ませていた。
 そして、そんな仕掛けに引っかかったのが目の前に一振り。
「鶯さん。足、大丈夫か?」
「ああ。手当てをしてもらったからな。」
 鶯丸は、あんな所に落とし穴があるとはと笑っていた。寝坊した俺が本丸の惨状に驚いたり呆れたりして縁側を歩いていたら鶯丸と出会い、挨拶をかわしつつすれ違おうとしたら鶯丸が消えていたのだ。あれには驚いた。そして変な落ち方をして足をくじいた鶯丸にまた驚いた。
「怪我人出るようなことは滅多にねえのに、何で今日に限ってこんなに皆して怪我してんだ。」
「色々と重なったからな。まあ茶を飲んでゆっくりするといい。」
 差し出された湯飲みに、俺が淹れたんだけどなと苦笑して受け取る。そして鶯丸が足を動かすのを見て、すっかり治ったようだと安心した。結構派手に痣もできていたのだが、この様子なら大丈夫なのだろう。
 安心して茶を啜り、外を眺める。隣に座る鶯丸もまた同じようにした。まだ本丸は賑やかだが、ここは少しばかり静かな時間が流れていた。この部屋は騒ぎの拠点となっている母屋より少し離れた位置にあるからで、どの刀剣男士の部屋でもないこの空き部屋は用がある者が少ないので必然的に誰もがあまり近寄らないからだ。しかしこの部屋は実は景色の良い部屋で、今も開けた障子の間に真っ赤な紅葉が美しく広がっていた。そう、その紅葉を堪能するためにと俺たちは隣同士に座っていたのだ。
 綺麗だなと呟けば、そうだなと肯定されて心地良い。いつものやり取りと遠くに聞こえる騒ぎの音、その対照的な様子が楽しかった。獅子王と名を呼ばれて振り向けば、差し出されていたのは水羊羹の乗った皿。昨日まで夏だったからなと鶯丸は笑っていて、そうだなと俺は返事をした。夏だった、秋になった、いつもの日常にするりと入り込んだ大きな非日常が気分をどこか高揚させる。周りに騒ぐ者がいれば冷静になれるのに、今は穏やかな鶯丸と二人きり。
 だから、いつもしないことも出来るような気がした。
 湯飲みを置いてその手をするりと移動させて鶯丸の首に伸ばす。彼が動かないことをいい事に、膝立ちになって彼の顔に顔を近づけ、がぶり。大きく口を開けて鼻に噛み付いた。でも痕は残らないように、何て加減して口を離して、目一杯笑った。鶯丸は微笑む。
「受け入れる気になったか。」
「ううん。まだ。」
 首に絡めた手を移動させて鶯丸の髪の毛を触る。ふわふわとした心地良い手触りに、何となく癒された。この手触りとは違うけれど、そういえば俺の鵺はどこに行ったのだろう。あまり遠くに行ってなければいいけれど、あいつなら大丈夫だろう。今はそれより目の前の彼のことだ。鶯丸は優しい顔をしたままだった。
「それなら、もう少しこうしているといい。」
「こう?」
「感情に赤が宿るように。」
 気障なことを言う鶯丸にふふと笑って、噛み付いた鼻を指でなぞった。俺の中で、まだこの行動に意味はない。色はない。彼との穏やかな時間は何とも違って好ましく思うけれど、彼の一挙一動に目が吸い寄せられるようだけれど、まだ、明瞭な色はない。
「色付けしたいとは思ってるんだ。」
 "あい"になるまで待ってほしい。そう伝えれば、鶯丸の口角がさっきより上がった気がした。
 彼は、それならばと言った。
「哀になられては困るな。」
 いつの間にか腰にあった腕に押され、項あたりに伸ばされた手のひらに引き寄せられて。嗚呼、紅葉の赤が目に痛い。彼の顔はわずかに下に向かい、がぶり、痛み。喉を、噛まれた。
「今ならちょうどいい。」
 秋だからな、首に息を塗るようにそう笑った男。まあ、確かに赤色が溢れているけれど。
「"好き"ももらってねえのにな。」
 そうして俺たちは不恰好なまま、笑い合ったのだ。



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