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 2016.01.25.Mon:01:08

第19回フリーワンライ企画様へ提出
使用お題:渡る/駆ける/世界は輝いた/グリム童話/星と嗚咽
ジャンル:オリジナル
タイトル:対極
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負


 深いような、ほんの少し明るいような藍色の夜空。細い三日月と多くの星が僕らのボートをほのかに照らす。それは小さな手漕ぎのボートで、僕らはそれを夜の川に浮かせ、その上でじっとしていた。目的地は向こうの川辺。ゆっくりゆっくりと穏やかな川の流れで僕らのボートは進んで行く。
 川を渡ろうと言い出したのは僕だった。そんな僕にきみは頷いただけだ。
「あなたはきっと素敵な人だろうね」
 きみが突然そんなことを言うので、僕はそれはどうだろうと笑った。ほのかな月明かりと星の微々たる光の下、きみの顔がぼんやりと見える。きっときみから見た僕の顔も薄らぼんやりとしているのだろう。
「グリム童話を知っているかな」
 きみのその言葉に僕は少しならと語る。鳥達の声と木々のざわめきが、川の真ん中に浮かぶ僕らには遠くのように聞こえた。きみの声すら、まるで遠くの様だ。
「きっとあなたはそれのように残酷なのでしょう」
 川の水面に空を駆けるかのような流れ星が、ひとつ。僕は一言だけ言った。
「どうかな」
 薄ら寒い夜だ。きみはそうかと震える声で言った。そして自身の両の手で組んだ指に、震えるほどの力を込めているように見える。そんなきみの目は開かれ、その目にはきっと僕が写っているのだろうなと思う。その潤みだした目に、僕はきっといるのだろう。涙が零れる。きらきら、きらきら、星の煌めきがきみの涙に映る。

 今、きみの世界は輝いているのだろう。歪曲した世界はきっと、きみだけの世界なのだ。それだけはきみにとっての嘘偽りのないものだと僕は思う。言うことなど、無いのだけれど。

 夢のような星空の下にきみの嗚咽が広がる。どうもしない僕はオールに手を伸ばす。星の映る水面に、歪な波が広がった。



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