LOG

 2015.11.15.Sun:23:34

第71回フリーワンライ企画様に提出作品『はんぶんこ』
使用お題:神様の悪戯/嘘に紛れた宝石を
ジャンル:二次BL
CP:うぐしし
タイトル:はんぶんこ
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
うぐしし。獅子王視点。


 鶯丸は今日ものんびりと茶を飲んでいる。ただし、今日はいつもと違って居間にいるものだからこの本丸の刀剣男士たちは皆して物珍しげに視線を投げ、それから俺に何があったのかなんて聞くのだ。だから俺はまあそういう時もあるんじゃねえのと言って彼らを納得させるのだけれど、正直一番疑問に思っていたのは俺だった。
 鶯丸は静かに茶を飲むことを好む。誰かの目を気にする性格じゃないけど、不特定多数の誰かがいる場所より見知った一人二人がいるような場所を好んでいる、と俺は思っている。
 浮世離れしたというか不思議な刀だけれど彼なりの理由を持って行動する刀である鶯丸なのだから、理由が知りたいと俺はその隣へと向かった。
 鶯さん、と呼びかければ、何だいと返事が返ってきた。視線をよこさないことに少し残念だと思いつつ、隣に座る了承を得てから隣の座布団に座った。
「なあ鶯さん。どうして居間に居るんだ?」
「まあ、こういうことがあってもいいだろう。」
「それはそうだけど。」
「それよりこの饅頭をやろう。」
「わ、いいのか? って何でこんなにあるんだ?!」
「山積みだろう。俺は処分に困っている。」
「ああ、そう……。」
 テーブルの上に山積みされていた色とりどりの饅頭に俺は納得した。鶯丸がいることに気を取られすきて気がつかなかった。皆してそうだったのかと思えば燭台切がお茶をどうぞと茶を持ってきてこれぜひ食べてあげてねと念を押したので、気がついている刀は意外といるようだ。というか気がつかない俺の方が鈍感だったのだろうかと思えてきた。
 ぐるぐると考えていたら鶯丸が饅頭の山から白い饅頭を手に取り、ぱかりと半分に割った。中はよくある餡かと思ったが、少し様子が違う。何だろうと思って見つめていれば、鶯丸はその割った片方を俺に差し出した。いや、いやいや。
「こんなにあるんだから分けなくてもよくねーか。」
「いらないのか?」
「いや、う、うーん。」
 一応もらってその半分の饅頭を一口だけ食べた。瞬間、口の中に広がる、明らかに餡子ではない甘味と独特な香り。
「ちょこれーとか?!」
「ふむ。ちょこれーとか。」
「鶯さんも知らなかったのか?!」
「これは鶴丸の机の下に隠してあった箱から拝借した饅頭たちだからな。」
 平然と言ってのけた鶯丸に頭が痛くなる。というか、鶴丸にも頭が痛くなる。鶴丸は机の下に何を溜め込んでいるんだ。驚きか、驚きの下準備か。そして鶯丸は何で拝借してきちゃってるんだ。普通他人の私物は漁らないだろう。いや、漁ったかは分からないけれど。それにしても。
「この山、一気に不安になってきた。」
「食べれるものしかないから大丈夫だろう。」
「最近夕飯にはばねろ混ぜて大目玉食らってたもんな。」
「主が辛党とは知らなかったな。」
「多分それ鶯さんだけだから。あんだけ一味を飯にかけてて知らない刀はいないと思ってたぜ。」
「そうか。」
 鶯丸はそう言って二つの目の饅頭を手に取っていた。どうやらさっきのちょこれーと饅頭は食べ終えたらしい。俺も次のを食べないとなと義務感にかられて残っていたちょこれーと饅頭を口に入れて咀嚼し、飲み飲んだ。するとそこを見計らったように新たな饅頭が差し出される。しかも半分のやつが。
「鶯さん。」
「食べるといい。」
「いや、さっきも言ったけどな。こんだけあるからそんな効率の悪いことしなくても。」
「いらないのか。」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど。」
 不思議そうな顔をして差し出した手を下げないものだから、俺は根負けして彼の指に挟まれた半分の饅頭を受け取った。今度は黒い皮に白い何かが詰められている。恐る恐る口に運んで食べると口に広がるのは慣れ親しんだ香りと苦味。
「抹茶!!」
「ふむ。白いのにか。」
「うそだろ。抹茶の色素どこ行ったんだよ。」
「まあこういうこともある。」
「う、うーん?」
 そうなのかと納得しかねながらも食べ終えるとまた差し出される饅頭。今度も半分に割られているが、色は桃色をしていて詰められているのはおそらく白餡ととてもわかりやすい黄色の塊。
「何で桃色の皮に栗なんだよ。」
「段々と語尾が弱くなってきたな。」
「ちょっと疲れた。」
 受け取って口に運んで咀嚼すれば見当は当たっていた。美味しいのだがちょっと納得がいかない。そう本当に美味しい饅頭ではあるのだ。だからこそ配色とか味の選択とかが納得できない。
「次はこれだな。」
「見た目からもう違う。」
「ふむ。栗のいがのようだ。」
「なあそれ食えるのか?というかなんで作った人はそこでいがを見た目に選んだんだ?さっきからすっげえ異彩はなってたけど。普通柿とかを模さねえか?」
「柿もあるぞ。」
「あるのかよ!」
 いがの形をした饅頭らしきものを器用に割った鶯丸はまた俺に半分を差し出す。俺はとりあえず受け取って、まずトゲの部分を食べた。というかそこしかまだ食べれそうになかった。
「飴細工か……。」
「器用だな。」
「その飴細工をこんなに綺麗に半分にした鶯さんも中々だけどな。」
「おお、中身はいちごか。」
「そこは栗じゃねーのかよ!」
 ぱりぱりといがを食べて饅頭にたどり着けば薄い飴の膜が張った饅頭の皮に詰められたのはこし餡と鶯丸が言った通りの苺だった。まるで意味が分からない。
 頭が痛いなと思いながら食べ終えればまた鶯丸が饅頭を差し出していた。半分に割られた皮が派手な赤色のそれを眺めつつ、なあと問いかける。
「これ、もしかしてこの山食べ終えるまで続けるのか?」
「一人じゃ食べきれないからな。」
「そうじゃないから。別に半分にする必要はなくね?」
「主がはんぶんこすると美味いと言っていたからな。」
 しれっと言われたそれに思わず思考が停止する。まあ、間違ったことじゃないしとんでもないことは言っていない。しかし、主がそれを言っていた時に前提にしていたことがある。
「なあ、それさ。」
 聞こうとして鶯丸を見上げれば、鶯丸は何事もなかったかのように不思議そうな顔で饅頭を差し出したままだった。
「それって主は“好きな人”とはんぶんこすると何でも美味しんだよって言ってたやつだよな?」
「食べないならここに置くぞ?」
「いや聞けよ。なあ、ちょっと、鶯さん。」
「ほら、手を出すといい。」
「ううーん。」
 仕方なく手を出すと手のひらに乗せられる饅頭はやっぱり派手な赤色をしていた。辛くないといいなと思いつつ、もう一度聞いて今度こそ回答をと思って鶯丸を見上げると彼は饅頭を食べながら目を丸くしていた。何事だ。
「これは。」
「うん。」
「無いな。」
「無いのか。」
 すっぱいと眉を寄せる鶯丸に、珍しい表情だなと思いながら赤い饅頭を食べる。餡は白餡のようだったけれどと思いながら咀嚼すれば、口に広がるのは爽やかな香り。
「青じそ……。」
「少し苦いな。」
「苦いっていうかえぐいっていうか。これは確かに、無い。」
 我慢して食べていると、でもまあと鶯丸が言葉を発するので彼を見てみると青じそ饅頭を食べ終えてその目で次に食べる饅頭を吟味しているようだった。それをしながら何事も無いように口を開く。
「獅子王と食べるから美味しいのだろう。」
 その言葉で思わず口の中の饅頭を飲み込んでしまう。今この刀、何て言った?
「……美味しかったのか?」
「まあそういうことだ。」
 どういうことだよと言ってやりたいのに俺は喉がうまく震えなくて、だからとりあえず残っていた青じそ饅頭を口に放り込んだ。
 それがどうにも何だかちょっとだけ美味しいような、そんな気がした。



- ナノ -