◎フジの花
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グラハウ/フジの花
ふと、甘い香りがした。
花のような香りに、グラジオは動きを止めた。香りを纏うのはハウだ。目の前を通ったハウは、ライチュウの新しい技がどうのと話しながら、カバンの中をひっくり返している。
「なあ、ハウ」
グラジオがそっと声をかけると、なあにとハウは振り返る。隣を転がって遊んでいたライチュウも顔を上げた。場所は夜のモーテルの中、バトルが長引いた結果であるが、二人で泊まるのは久々だと話したばかりだ。
ふわり、満開の花を思わせる香りが、グラジオの鼻をかすめた気がした。
「その香り、なんだ?」
問われたハウはぱちりと瞬きをする。目が大きく見えるのは、彼がグラジオより体格が小さいからだろうか。
ハウはライチュウと同じポーズでうんと考えてから、ああと思いついたように広げたカバンの中身を探った。ぐいと腕を伸ばして掴んだのは、淡い紫色をした液体の入ったボトルだった。
「グラジオも行ってみるー?」
「どこにだ?」
「ふふ」
花園だよと、ハウは楽しそうに笑った。
ポニ島の奥には花園がある。グラジオにもその知識はあったが、行ったのは初めてのことだった。
朝だ。ゾウゾウと吹く風と、舞う花びら。紫色の花弁が、しとりしとりと垂れている。風で揺れて、花びらがガクから外れて、舞っているのだろう。グラジオは、垂れるように咲く紫色の花に、この花は図鑑で見たことがあるなと考えた。あの図鑑はリーリエのものだっただろうか。もう随分と見ていない。
「おれもさ、最近紹介されて来たんだよー」
綺麗なところだよねと、ハウはむらさきのミツを採取しながら言った。
「何故、ミツを集めているんだ?」
「ポニ島のしまクイーンに頼まれたのー。ついでに、丁度良い鍛錬の場所になるだろうからって」
ここのポケモン、とっても強いんだよ。ハウはミツの入ったボトルの蓋を押しながら言う。よしと頷いた頃に蓋が閉まったようなので、ミツを集めたボトルを見せてもらう。
ボトルの中には燦々とした太陽の光でステンドグラスのように輝く、ほんのりと紫色をしたミツが詰められていた。
「甘い匂いがしたでしょー? たぶんここの匂いだよー」
いい匂いだよねとハウが笑う。言われたグラジオは、ふっと肩の力が抜けたようだった。
「ああ、良い香りだ」
ついでだから探索しようよと誘われて、グラジオはハウのやわい手を握ったのだった。
05/01 22:33