◎天使みたいにかわいいね


グラハウ
作業用BGM→造花の距離感


 まるで天使だと思った。
 ハウが落ちてくる。その背中には白い翼、しかし動く事を忘れたかのような翼は少しとて動く事なく、どんどんと俺の方へ落ちてくる。こちらに背を向けたハウの顔は分からない。だけど、何故かハウは眠っていると思った。そしてこれは、彼が眠りから目覚める為の儀式なのだ、と。
 だからオレは腕を広げる。天使を受け止めてみせようそう思った。

 のに。

 目が覚める。エーテルパラダイスの自室で、オレは目が覚めた。夢か、そりゃ、夢だろう。ハウに翼があるなんてわけが無いのだから。だけどオレは考える。想像の中、笑うハウに翼があったとしたら。嗚呼、やっぱり。
「天使みたいだ」
 褐色の肌とは違う、真っ白な翼。透き通るような目の奥、悲しみを笑みに変えて、笑う少年。
「天使みたいだ」
 ぽろ、オレの手に涙が落ちた。嗚呼、嗚呼分かってる。
「ハウが天使だなんて」
 その翼でどこかへ行ってしまうのだろう。しまキングの孫であるしがらみや、父親への感情を全て解き放って、飛んでいくのだろう。
 嫌だ。想像上のハウに手を伸ばす。嫌だ嫌だ嫌だ。そばにいてほしい。他の誰でもない、オレの隣で笑って、その翼を折って欲しい。折って、千切って、オレの名前を呼んで泣き叫んで。
「ただ、隣にいてほしいんだ」
 天使みたいにかわいい子。天使にはない哀愁の思い。ハウの幸福を願うのに、オレまだ、手を離せない。いつか手を離すべきなのに、オレはまだ、その天使の足を掴んで離せなかった。

 ハウが落ちてきたのは彼の目を覚ます儀式ではなく、俺に目を覚ませと叫ぶ誰かの思惑だったのかもしれない。


10/11 23:29
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