◎私の香りで埋めるために
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グラハウ/診断のお題をお借りしました
優しい貴方に包まれたいの。
グラジオはお父さんのことを喋らない。おれも、とーちゃんのことを話さない。お揃いだねって笑えたらいいのに、おれとグラジオの父親はおれたちの心に傷を残してしまった。
グラジオのお父さんは決して悪い人ではなかったのだろう。初代チャンピオンとなったあの人は、悪い人ではなかったんだよと言っていたから。唯、あまりにも生粋の研究者であっただけだと。
おれのとーちゃんも決して悪い人ではなかった。唯、じーちゃんと喧嘩して、家を出て行った。喧嘩の理由は今なら知ってる。だけどその当時はその喧嘩が起きる度に怖くて、怖くて。とうとう居なくなってしまったとーちゃんは、幼いおれの心の傷となってしまった。
それを、それらをお揃いと笑えたらよかったのだろうか。そうすれば傷の擦り付け合いが出来たのだろうか。そうすれば心の底から掬い上げた全てをお互いに話すことが出来たのだろうか。そうすれば何か救われたのだろうか。そうすれば、何か変われたのだろうか。
「ハウ」
短くおれの名を呼んで、グラジオはおれを抱きしめる。場所はおれの家、いつお手伝いさんがやってくるかも分からないデッキの上で、グラジオはおれを正面から強く強く抱きしめる。
「どうしたのー?」
そう聞けば、何か良くないことを考えていただろうと耳元で言われた。全く、おれの恋人は変なところで察しが良い。
「なんでもないよー」
そう、事実なんでもないのだ。だってどうしたっておれは父親がお揃いだなんて笑えないし、伝えたところできっと何も変わらない。何も起きないのだから、なんでもないのだ。
そうやって笑えば、グラジオはぎゅとおれの体を強く抱きしめた。流石に痛いよと抗議すれば、グラジオは、苦しいのならと呟いた。
「苦しいのなら、オレがそばにいる」
それだけでいいだろうって辛そうに言うから、苦しいのはグラジオじゃないかとおれは笑った。だから、おれはグラジオの背中に手を回す。
いつ終わるかも分からぬ二人きり。腕の中、お互いの香りが移れば良いと思った。
05/24 17:57