◎耐え難きを耐え


グラハウ
タイトルは207β様からお借りしました。



 青空が見える。
 海の青は空の青。お日様の光が複雑に通り抜けて、青が残る。そして、光が届かなくなると、海は黒くなる。真っ黒な海を、誰かが真っ黒な青と言った。
 おれは真っ黒な青を目指して歩いているのだろう。光が届かない底へ、向かえばきっと前に進めるのだと信じて、おれは進むのだ。進むにつれて鮮やかな色が段々と抜けていく。物悲しいし、名残惜しいけれど、これは必要なことだった。
「グラジオ、お見合いするんだってー?」
 おめでとうって笑えば、黒い青が眼前に迫る。色褪せてモノクロに近くなったグラジオの目が見開かれる。ああ、折角綺麗な色だったのにな。後悔したけど、止まるわけにはいかなかった。
「おめでとうー」
 先越されちゃったね。笑えば、グラジオは痛々しい顔をして、喉を震わせた。
「違う、勘違いだ。見合いをするのはオレじゃない」
「あれ、そうだったのー?」
「職員にそういう話が来た人がいたんだ」
 なあんだ、勘違いだったのか。安堵したけど、眼前に迫る黒はおれを飲み込もうと口を開く。大きな黒い青、海の色は温度なんて無いのに、少しだけ温かい気がした。
「だから、そんな顔をするな」
「ええー、それを言うならグラジオでしょー?」
 酷い顔してるって、グラジオの頬に手を当てる。色の無いグラジオ、綺麗な髪も目も黒に飲まれてしまっていた。その深層の黒は、吸い込まれそうに真っ黒だ。
「泣くな」
「泣いてないよー」
 笑えば、グラジオは泣いていると繰り返した。
「心が泣いてるだろう」
 おれの手に手を重ねて、絡めて。温かな体温に驚いた。瞬間、ぱっと肌の色が見えた。爪のピンク、髪の金、目の青までもが真っ黒な青から浮かび上がる。
 なんだ、簡単なことだったのか。
「ずっと一緒だ」
 おれはやっぱりグラジオと一緒が良いのだろう。彼は温度の無い黒い青からおれを引き上げてくれた。鮮やかな世界が、グラジオが、愛おしい。
「約束だよー?」
 広がった青空は高く、お日様がおれ達を照らしていた。


04/18 16:41
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