◎朝露に流れ着いた
グラハウ/静かな夜が明ける
タイトルはシングルリアリスト様からお借りしました
静かだ。
夜、リリィタウンの自宅。その日はやけに静かな夜だった。人の声は勿論、ポケモンの息遣いすら聞こえない夜、おれはじーちゃんを揺さぶり起こした。
じーちゃんあのね、何も聞こえないんだ。そう言うとじーちゃんは悲しいような苦しいような難しい顔をして、おれに囁いたのだ。
『夜は むこう の時間だ』
だから、早く寝てしまいなさいって。
エーテルパラダイス、グラジオの部屋の中。ベッドの中で眠っていると、ふと静かな事に気がついた。数多くいる筈の職員の声は聞こえず、保護区にいるポケモン達の気配もしない。まるで一人だけの世界かのような夜、おれは隣で眠るグラジオの肩に触れた。
揺さぶり、起こすとグラジオはどうしたと不思議そうにした。
「聞こえないんだーなんにもきこえない」
そう言ってグラジオの肩に額を押し付けると、グラジオは怖いのかと言った。
「怖い?」
ああ、そうだ。グラジオがそう言っておれの頭をするりと撫でて起き上がった。
「静かな夜が怖いのかと思ったんだ」
だって泣きそうな顔をしている。そう言われて、おれは目を閉じて瞼に指を這わせた。しっとりと濡れる指先に、おれは泣きそうだったのかと気がついた。
「オレがいるから怖くない」
ハウが望むなら、朝まで起きていよう。そう言って微笑んだグラジオに、かっこつけだなあなんて笑みが溢れた。
「もう怖くないよ」
だから一緒に眠ろうと、おれはグラジオをシーツの海に引きずり込む。二人でベッドに倒れ込んで、ふふと笑った。
静かな夜だ。グラジオがそこに居るのに居ないかのような夜だった。だけどグラジオはそんな曖昧な世界でもおれと一緒に居てくれると言った。その事におれは心の底から安堵して、また目を閉じた。
静かな夜が明ける。その時に生まれる朝露は、行き場を失った涙なのだろう。
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