◎いちばん


グラハウ/ハウさんが悩んでいる話
!ネタバレ!
クリア後の閲覧をお勧めします。
時間軸はクリア後です。


 せかいでひとりだけ。
 例えばの話。もしもこの場所に二人きりで閉じ込められたら、おれたちは二人きりで、お互いしかいないんだね。ハウはそう言って笑って、保護区の中の白色に溶けていくようだった。だからそれを引き止めたくて、俺は口を開く。
「何もかもを投げ出したいということか」
「違うよー」
 唯、グラジオと共に居ることが出来たらいいなあって。そう言ってハウはまた笑う。その笑顔がやけに痛々しく見えて、オレはその手を取った。どこか柔らかくて優しい手が、どうにも冷えているように感じた。
「世界で一人だけ、グラジオが好き」
 本当に、ほんとうに好きなんだよとハウは笑っているのに泣きそうな顔で言う。どうしてそんなに悲しいんだと問いかけると、悲しくないよと嘘を吐く。嘘つきだなと言えば、大嘘つきなんだよと笑っていた。
「おれもグラジオもやるべきことがあって、お互いを一番になんてできないから。だから俺は嘘を言うんだー」
 おれは分かっているよと、ハウは笑う。それは良い子の典型のような自己を殺した言葉で、どうしようもなく苛立った。いつだって自分を見失わなかったお前が、どうしてそんな風に自分を殺すのか。それがどうして、オレ達のことなんだ。
「欲張りになれ」
 繋いだ手をぎゅっと握り締めれば、痛いよと彼の目から涙が溢れた。それを親指で拭って、もう一度同じことを言った。
「欲張りになれ。諦めることなんて何もないだろ」
 涙をぽろぽろと溢しながら、ぎゅっと口を閉ざすハウに、続ける。
「オレはお前が好きだ。愛してる。それを一番にしてはならない何て誰が言ったんだ」
「でも、」
「でも、じゃない。不安になるぐらいなら未来の事なんて考えるな。ただ、お前は笑っていろ」
 なにそれとハウが笑う。何処となく先ほどより明るい笑顔に、オレは安堵して握った手を緩め、また指を絡め直した。その動作がくすぐったいと笑う姿にまた、安堵した。
「今日は泊まるか」
「いいのー? 」
「当たり前だ」
 そうして一緒に寝てしまえば、きっとその危うい不安は消えてしまうから。そう伝えれば、ハウはそうだといいなあと微笑んだのだった。


11/25 19:20
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