◎お前が言うのか


グラハウ
!ネタバレ!
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 口に出したら嘘になってしまうんだって。
 好きだって言ったことがない。もちろん、言わなくても伝わっているなんて事は思っていない。だから、オレとハウの二人が平行線なのは当たり前だろう。もどかしいと思うこともあるが、好きだとは言えなかった。
 だって、口に出したら嘘になってしまうのだから。
 その事を聞いたのは誰からだっただろう。もしかしたらビッケかもしれない。少なくとも、明け透けに好き嫌いを言う母親が言ったことでは無いことだけは分かる。とにかく、何故だかその事が心に染み付いていて、ハウに好きだと言いたくなかった。
 言葉にしなくても伝わればいいのに。何度か思った事を、また思う。口にせずとも本当の気持ちが伝わるのならば、言葉にして飾り立てることは無いのに。そう、口にすると気持ちが嘘になるというのは、気持ちという形の無いものを言葉という形に収められるわけが無いからだ、と俺は思っている。結果、言葉は嘘になってしまう。
(でも、好きだ)
 目の前で笑って、楽しそうに走って、元気そうに手を振って、幸せそうにマラサダを頬張る。そんなハウが好きだという気持ちは、本当のものだ。好きで、好きで仕方なくて、だからこそ嘘にしたくなかった。

『言葉って本当は何なんだろー』
 脳内に浮かんだハウが首を傾げる。
「人と会話するためのものだろう」
『じゃあ、会話ってなんだろ』
「人に考えた事を伝えるものだ」
『なあんだ』
 じゃあ、全部正解だねだなんて。辛い事も悲しい事も、何も言わないお前が言うのか。

 正解だねというのは、本当だねということだ。そもそも好きだという言葉の形に心の中で自覚したのに、そこには嘘も何も無いと脳内のお前は言ったのだ。だから、ハウが悪いんだ。
「好きだ」
 久しぶりに会った帰り際。手を振って別れようとする彼の腕を掴んで引き止めて、簡潔に伝えれば、彼は目を丸くしてからみるみるうちに顔を真っ赤に染めた。
「うそでしょー!? 」
 そんなの、お前が言うことじゃないだろ。なんて。


11/25 18:08
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