▼ 救命
Apr 2, 2015(Thu.) 02:45
鉢しん/救命



 そのやわらかな手が私の頬を撫でた。
「いたいの、いたいの、とんでけー。」
 その唇は震えていて、声だって目だって涙で濡れていた。そのまるっこくて力持ちで、食べることが好きな大食らいな忍たまはそのままポロポロと涙をこぼす。その涙を拭って仕舞いたいのに、どうにも私の腕は持ち上がらない。
「すぐに乱太郎たちが来ますから、おねがいだから、」
 私の身体から手を離し、膝の上で手を握りしめる忍たまに。そう、しんべヱに、私は苦笑をしてしまう。そんなに大事じゃない。ただ怪我が多いだけで、毒は仕込まれてないし出血も最小限にとどめてある。だからそんなに泣くことでは無いのだ。でも私は泣かなくていいの一言すら言えないのだ。喉を動かすなんて簡単な事が億劫で仕方が無い。でも、何故か眠くはならなかった。ただ、しんべヱを泣き止ませる為にあれはこれはと試していた。しかしそれらは一つすら出来無くて、不甲斐ないなんて考えた頃に救援隊がやって来た。それを見てほんの一瞬だけ安心した顔をしたしんべヱに私は満足し、ゆっくりと目を閉じた。
「すぐに帰れますから、鉢屋先輩、がんばってください。」
 そんなしんべヱの声が聞こえたら、不思議と眠くは無くなった。

 保健室の真白い布団に包まれて、同じく真白い包帯を身体に巻き付けて、私は治療の為に外に出ていたしんべヱと再会した。
「鉢屋先輩、もう大丈夫です、だからゆっくり休んでください。」
 まだまだ涙で潤む目に苦笑すれば、しんべヱは目を手で擦ってから笑顔で口を開く。
「そしたらまたお団子を食べに行きたいです!」
 その眩しい笑顔に、やっと私は理解した。
(しんべヱは私の命を掴んでいてくれたのだな。)
 将来はこの御曹司を護るのもいいかもしれないな、なんて。



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