カルセレ/まだまだ知らないことばかり


　知らないことなんてなくなってしまったかのようだった。カロスを旅して、私は強くなって、悪の組織に立ち向かって。全てを終えた私にはもう知らないことなんてないかのようだ。頼もしいパートナー達、信頼できる人間たち。旅の中であのフラダリさんともっと話せていたらフレア団なんて出来なかったのかもしれないなんて幻想を抱くほどに私は勘違いしていたのだ。
「お隣さん。」
　そう言って手を差し出したカルム君に私は目を白黒させてその顔を見上げるしかなかった。旅立った日は目線が同じだった筈なのに、どうしてか視線が交わらない。伸びていた身長に、私はなんだと悟る。
　私は周りをちっとも知らないのだ。大切な信頼できるトレーナーのその外見すら知らなかったのだ。
「今日は記念日だからパーティをしよう。」
「記念日？」
「そう。」
　旅立った日だと。
「僕とお隣さんが初めて出会った日だよ。」
　そうして見せてくれた笑顔だって、私の知らないものだった。