貴方のためならこの身など、



「ユウジ先輩、ユウジ先輩」
「あ、なんやねんくっつくなや...あ、嘘お前手つめた....気持ちええな」
「ユウジ先輩は俺のことどんくらい好きです?」
「は?」



年下の後輩の突拍子もない発言におもわず口をつけていたペットボトルが地面に吸い込まれかけた。
何度も瞬きを繰り返して、深呼吸を繰り返してもう一度目の前にたつ相手に向き直る。
目の前にいるのは紛れもなく財前光である。
口をひらけば毒を吐き、頭を撫でようと思って手を出せば噛みつく。
その財前光からこんな言葉を聞くことなんて初めてで思わず言葉が口をつく。



「なんやお前、暑さで頭やられたんか?」
「ユウジ先輩と一緒にせんといてくださいっすわ」
「どういう意味じゃボケ!」
「で、どんくらい好き?」


しれっと毒を吐くくせに、この場を立ち去りはしない。
らしくない財前の様子に少しだけ、困惑する。
なぁ、先輩、答えてや、なんて、珍しく甘えた声が鼓膜を揺らす。
こういう時だけ年下を上手く使う目の前の恋人はずるい。
俺がなんやかんや財前に甘いことを熟知してるから。時として厄介になるくらい。
可愛さから手を伸ばせば、その手を掴まれてぺろりといかれることはもうわかってるはずなのに。
それなのに俺の手はそっと財前の頬を撫でた。



「なんやねんな....先言うとくけど今日お前が誕生日なん忘れてるわけやないなんで?あとでゆっくり祝ったろうと思ってたんに...」
「祝ういうても部長も謙也さんらも一緒ですから嫌ですわ...先にユウジ先輩におめでとう言うてほしかったのに...電話もメールもないから忘れてるんちゃうかおもてただけです...」
「はいはいごめんな....俺やって一番に祝おうと思っててんで...?でも白石がサプライズするってうるさいから....」
「先輩おめでとういうて..」



つまらさそうに視線をそらしてぼそり呟く、財前のすねたときの仕草。
あぁこれは純粋にかわええ。そう思って軽く唇を重ねる。



「お誕生日おめでとう、財前」
「...おーきに、すわ...」
「プレゼントはまたあとでな。帰りにわたす」
「....一生大事にしますわ....」
「大げさやで」


ぎゅう、と力強く抱きついてきた財前の頭を撫ぜる。
鼻をかすめる財前の匂い。ワックスの匂いの中に混ざるその匂いが好きやなんて口が裂けてもいわない。
今日は俺の親も兄ちゃんも用事で家をあけるから、きっとこのあと俺の家になだれこんでベットでいちゃいちゃするのだろうと思うとやっぱりどこか幸せを感じる。
きっと明日の朝には財前の匂いを纏う俺の部屋を想像して呆れと幸福感に襲われた。



「あ、せや、さっきの質問に答えてへんかったな」
「質問...?」
「財前のことどんくらい好きってやつ」
「あぁ....、答えてくれるん?」
「今日だけ特別やで?」


ちゅ、と軽く音をたてて財前の鼻先に唇をおとす。
すると場所が気に入らなかったのか財前の唇が俺の唇をうばった。
そのまま額を合わせたまま財前の瞳を、とらえて微笑む。



「せやな...財前のためなら全部他のもんすてられるくらい、やろか。俺の全部...捧げられるくらい、好きやで」
「...あかん、めっちゃうれしいかも....」
「俺の全部、もらってな?」



夏の日差しにくっきりと映し出された二つの影が、再び一つに溶け合った。






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