「あーダメになった…」
なんの反応も示さなくなった機械を指でつつく

幸ちゃんやリコに頼んで借りてきた桐皇の過去試合のDVDをケースにしまう
…10時間近く観てたらそりゃ壊れるよね

DVDの見過ぎで壊れてしまったプレイヤーを部屋の隅に置いて、山積みにしていた月バスを手に取る

そのとき、電話の着信音が鳴り響いた

「もしもし」
『さゆ、今大丈夫か?』
「うん、大丈夫っ」
俊くんの声に反応して慌てて雑誌を閉じた

『今日、何してた?』
「桐皇の研究。DVD観たり、月バス読みあさったり」
『もうすっかりマネージャーが板についたな』
電話越しに聞こえた俊くんの笑い声を聞きながらカーテンを閉めようと窓に近づいた

『さゆ、窓開けて外見てみ』
「え?」
自分の行動を見られていたんじゃないか、そう思うくらいバッチリなタイミングで言われた言葉に驚きながらも窓に近づく

『「さゆ」』

窓を開けた瞬間、呼ばれた名前

それは、耳元と少し見下ろした場所の2ヶ所から聞こえてきた

「俊くん、なんで…」
「さゆに会いたくなってさ」
照れくさそうに笑った俊くんを見て、急いで部屋から出て家を飛び出した

「俊くん!!」
「こんばんは、かな」
勢い良く抱きついた私を抱き止めて、ちょっとおどけたように囁いた

「俊くん、俊くん…」

ぎゅっと強く抱きつきながら口を開く

なんでだろう
なんか今日は、無性に俊くんに甘えたい気分になる

「さゆ」

俊くんは、そんな私の気持ちがわかったのか、優しくキスをしてくれた

「…明日、頑張ってね」
「ああ」
「桐皇にいる、青峰大輝って人、元.帝光中のエースだけあって相当強いけど…」
「…そっか、でも」
俊くんはにっこりと笑うと、

「さゆからキスしてくれたら勝てるかも」

と言った

「…バカ」
そう呟きながらも俊くんの頬に手を伸ばしたあたしもバカなんだろうな、なんて思いながら唇を重ねた



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