「くあ…」
「大丈夫?伊月くん」
隣の席であくびを漏らした伊月くんにコソッと尋ねる
「…なんとか」
「やっぱ『キセキの世代』がいる学校との試合は疲れるんだね…」
あっそうだ。
先生にバレないように鞄から飴を取り出して伊月くんの机に置く
「あげる。疲れには甘いものがいいんだよね?」
そう言えば、一瞬驚いた表情をしたあと
「ありがと」
と笑顔で言ってくれた
…顔、赤くなってないかな
ブブブ
少し熱を持った頬に手を当てた瞬間、ボケットで携帯が震えた
From リコ
件 緊急連絡!!
昼休み、2-C前集合ッ
…昼休み?
「お昼代ちょうだい」
「え?」
戸惑う私をよそにみんなはリコにお金を渡していく
「さゆ、早くッ」
「う、うん」
よくわからないままリコにお金を渡した直後に一年生が揃った
「ちょっとパン買ってきて」
「は?パン?」
可愛らしく言ったリコの言葉に一年生が¨?¨を浮かべる。
いや、私もわかんないけど…
「実は誠凛高校の売店では毎月27日だけ数量限定で特別なパンが売られるんだ
それを食べれば恋愛でも部活でも必勝を約束される(という噂の)幻のパン、イベリコ豚カツサンドパン
三大珍味(キャビア・フォアグラ・トリュフ)のせ!!2800円!!」
「高っけぇ!!…し、やりすぎて逆に品がねぇ!!」
普通にくどそうなんだけど…
てゆか、なんとなく思い出したよ、あの光景…
「海常にも勝ったし、練習も好調
ついでに幻のパンもゲットして弾みをつけるぞ!!ってワケだ!」
「けど狙ってるのは私達だけじゃないわ
いつもよりちょっとだけ混むねよ」
え、ちょっと?
「パン買ってくるだけだろ?チョロいじゃんですよ」
相変わらず敬語がおかしい火神くんに日向くんが封筒を渡す
「金はもちろんオレらが出す。ついでにみんなの昼メシも買ってきて。ただし失敗したら…
釣りはいらねーよ
今後筋トレとフットワークが3倍になるだけだ」
日向くんコワ…っ!てか、お昼の買い出しクラッチタイム!?
「ホラ、早く行かないとなくなっちゃうぞ
大丈夫。去年オレらも買えたし」
「伊月センパイ…」
「パン買うだけ…パン…パンダのエサはパ」
「行ってきます」
遠慮ないな、一年生
てか…
「何がちょっと、よ」
ケロリとした表情をしているリコに言えば、
「えー?これから毎年一年生の恒例行事にするわよ♪」
「え…」
「それよりさゆ」
…それより?
「なに?」
リコは私の肩に手を置くと、
「伊月くんとジュース買ってきて」
めちゃくちゃ良い笑顔で言った
「はい、お金。ちゃんと人数分買ってきてね
じゃ、よろしくさゆ、伊月くん
あっ屋上に持ってきてねっ」
軽く早口で言うと私と伊月くんの背中を押して屋上に向かって歩き出した
「あー…買いに行くか」
困ったように頬を掻きながら言った伊月くんを見て頷いて自販機に向かう
リコのバカッスッゴい気まずいんだけど…ッ「なぁ、清水」
ガコンッと大きい音と一緒に降りてきたジュースを取った手を伊月くんに掴まれた
え…なに、この展開ッ!?
「い、伊月くん?」
「持つよ」
「え?」
「これ」
伊月くんはそう言うと私の手からジュースを取って
「早く行かないとカントクに怒られるんじゃない?」
と言って歩き出した
…なに期待したんだろ、私
掴まれた手が妙に寂しくてキュッと軽く握りしめた
「さゆ〜♪」
「…リコ」
リコはニコニコと笑いながら私の隣に座ると、
「どうだった?何か進展はなかったの?」
と聞いてきた
「進展、ね…」
「あったの!?」
「なかったよ、何にも…」
ただ、ますます伊月くんに惹かれてる自分に気づいちゃっただけ…
そう口にはしなかったが、リコは言いたいことがわかったのか頭を軽く叩いてから
「よしっ気分転換に偵察でも行こっか!!」
と言った「気分転換に偵察?」
「あら、いいじゃない」
リコの気遣いが嬉しくて私は小さな声で
「偵察、行きます」
と言った