「さゆちゃん、電話よ」
「え?」

夜、貴志の部屋で勉強をしていると、塔子さんが部屋に来て一言、そう言った

「もしもし」
電話の置かれている場所に行き、口を開くと
『あ、さゆ?お母さんだけど』
妙に明るい声が聞こえてきた

「…お久しぶりです」
『え、なんで敬語!?』
「何日ぶりだと思ってんのさ!?」

[お母さんの知り合いにさゆのこと頼んでおいたから大丈夫よ
メールで地図送るからそこに行きなさい
それじゃ、また連絡するからっ]

1ヶ月前に言われた言葉を思い出してため息をつく

また、って1ヶ月後のことかい…

「で?用件は?」
どうせ、「特にないけど〜」だろうけど…

『あぁ、あのね、お父さんの仕事が一段落ついたの』
「へー、お疲れ様だね、お父さん」
『それで、さゆ』
「ん?」
『前の学校に戻ってくれない?』
「…え?」
戻るって、ここを離れなきゃいけないの…?

『ほら、いつまでも塔子さんと滋さんに迷惑かけるわけにはいかないでしょ?
お父さんも会いたがってるし。だから、』
「…ッやだ!!」
『ちょっと、さゆ?』
「絶対、ここを出ないからっ!!」
それだけ言って一方的に電話を切った


「さゆ?」
「た、かし…ッ」
私の表情を見て困惑した貴志に向かって抱きついた

「ちょ…ッ!?」
「…、なんでもないっ」

気づかれたくない

とっさにそう思い、笑顔を作って貴志から離れた

せっかく、こんなに幸せなのに、離れなきゃいけないの…?



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