「貴志ーッ…って、あれ?」
いつものように部屋の扉を開けた手の動きを思わず止めた
いつもなら貴志が寝ている場所にはもう布団がなくて、いつもきれいにかかっていた制服はもうすでにその場になかった
「塔子さん、貴志ってもう学校行っちゃいましたか?」
「あら、聞いてない?貴志くん、今日日直だから早く行くそうよ」
「え?」
聞いてない、というか、貴志は今日日直なんかじゃない
なんだか嫌な予感がして、朝食を急いで食べていつもより早く家を出た
教室に着くと、西村くんと北本くんと話している貴志が目に入り、足早に近づいた
「清水さん、おはよー」
「おはよう…貴志、ちょっと」
不思議そうな表情を浮かべた2人にごめんね、と小さく謝って貴志の腕を引いて教室を出る
「なんで先行っちゃったの?塔子さんに嘘ついてまで…」
「…ごめん」
「ごめんじゃなくて…ッ」
「さゆ」
いつもと違う声が聞こえ、思わず口をつぐんだ
「少し、距離を置きたいんだ」
小さく俯いたまま呟いた貴志の言葉に頭が真っ白になった
「な、んで…?」
貴志は私の目に涙が溜まっていく様子を見て眉をひそめたあと、
「…さゆは何にも悪くないんだ」
と言って私に背を向けて教室に向かって歩き出した
…涙が出るわけでもなくて、
私はただ呆然とその場に立ち尽くしていた