いや、待って
ちょっと頭が理解してくれない
初めて、辰巳よりケンカが強い人を見た

一方的にやられていた幼なじみを呆然と見ていると、
♪チャーチャーチャチャーチャー
なんとも陽気な音楽が流れ、ケンカをしていた相手が電話に出た

「どええっまじっすか!!了解、すぐいきますっ
悪いな、急用が入っちまった。また今度遊ぼーぜ」
「待てよ。…てめぇ、東条の何なんだ…?」
「手下その1−ってとこかな
…そこにいるさゆちゃんに手当てでもしてもらえよ」
「え?」
突然名前を呼ばれて驚いていると、私以上に驚いた表情をしている辰巳と目が合った

「じゃ、またね」
手を振って帰っていく男を見送ってから辰巳に駆け寄った

「なんでさゆがここにいんだよ」
「…え、」
初めて自分に向けられた辰巳の怒りを含んだ声に思わず足がすくんだ

「私はただ、ちょっとコンビニに行こうかと思って…」
声が震えているのが自分でもわかった
…怖い
初めて、辰巳を怖いと思った

「早く帰れ」
「でも、手当て…」
「いらねーから帰れ」
完全な拒否
それがこんなに痛いなんて…

「…ごめん」
何に謝ったのかなんてわからない

怒らせたことなのか
しつこくしたことなのか

でも、そんなことを考えるよりも先に私の足は辰巳から離れていくことを選んだ


翌日

「東条さーん、来ましたよー東条さーん!!」
「おーいまいく。さゆ、早く来いよ」
「はーいっ」
名前を呼ばれて東条さんに駆け寄る

「ほーう、なるほど。お前が男鹿か…思ったより細いな。…ケンカ、しようぜ」

東条さん越しに驚いた表情をした辰巳と古市の2人と目が合った



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