「…はぁ」
小さくため息をついて目の前にある扉を見つめる

結局、2人の勢いに圧されて来ちゃったけど…

「なんて言えばいいのかわかんない…ッ」
なんでキスしたの?とか、私のことどう思ってるの?とか、聞きたいことは山ほどあるのに、

「私、こんなビビりだっけ?」
辰巳の顔を見たら、何1つ言える気がしない

「さゆ?」
「あ、古市」
扉の前で唸っていると、いつの間にか古市が後ろに立っていた

「早く押せばいいだろ」
「え、ちょっ待って…ッ!!」
チャイムに手を伸ばした古市の腕を止めたときには、時既に遅し
明るいチャイム音が男鹿家に響いたのが聞こえた


「む、さゆに古市…」
「ヒルダさん…」
「−…男鹿いる?」
古市は私の手を引くと、そのままズカズカとリビングに向かって歩き出した

「さゆに古市!!いいところに来たな
丁度お前らを呼び出そーと思ってたトコだ
見ろ、ベル坊が夏風邪でよ」
普通に話しかけてくる辰巳に胸が締めつけられた

やっぱり、ただの気まぐれだったの…?

「さゆちゃん」
「…美咲さん」
「どーした?」
いつの間にかいなくなっていた辰巳と古市とヒルダさんを探していると、美咲さんが頭を撫でてきた

「またあのバカ、さゆちゃんに何かした?」
「いえ、そんな…」
とっさに上手く笑えない自分が嫌だ
明らかに不自然な笑みを浮かべてしまったことが自分でもわかった

「…まだ聞いてない?」
「え?」
「辰巳の好きなコ」
どうしてこのタイミングで、と思いながら首を横に振る

キスしてきた理由さえわからないのに、聞けるわけないよ…

「もーっホンット、もどかしいーっ」
「み、美咲さん?」
「ねぇ、さゆちゃんッ!!」
「はい?」
「あいつ、救いようのないバカだけど…
理由もなくさゆちゃんのこと傷つけたりなんか絶対しない。それだけはわかっててあげてくんないかな?」
美咲さん…

「…わかってます、ずっと、前から」
幼稚園のときにいきなり水をかけてきたのは、私の水嫌いを治そうとしたから
小学生のときに、私の給食のおかずを全部食べちゃったのは、その中に私の大嫌いなものが入ってたから
中学生のときに私を突き放したのは、私をケンカに巻き込まないために
全部全部、理由があった


「…ありがとうございます、美咲さん」
ペコッと頭を下げて、さっきから賑やかな声のする庭に向かう

落ち着いて話せるようになったら
今度こそ、自分の気持ちを辰巳に言いたい
…ふられても私は好きだから



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