え、あれ?辰巳、ボロボロにされてたんじゃないの?
「…なにを…してくれてんのよ、このボケがぁぁっっっ!!」
美破は頭を掴まれたまま勢いよく顔を上げ、辰巳を睨みつけた
「てゆーか何なのあんた!?さっきまでボコボコにやられてたクセに…
空気読みなさいよっ!!あんたの出番はもう終わりなの!!こっから先は女王対決でしょ!?
そーゆー流れなの!!わっかんないかなぁ!?
あーもうっ!!本当信じらんない!!私の美しい顔をよくも…絶対ぶっ殺すからっ」
ぐだぐだしゃべる美破の顔を何回もめりこませていく辰巳を見て固まる邦枝さんとそのお友達
「ふーやっと静かになったね」
清々しい笑顔で言った辰巳に苦笑いが漏れた
あー…安心したらなんかクラクラしてきた、気がする
ベルちゃんを邦枝さんに押しつけている辰巳を見ながら壁に寄りかかる
「行くぞ、さゆ」
「ヒルダさん…」
後ろから現れたヒルダさんに腕を引かれ、ふらつく足取りで歩き出す
「いつまで下らん話をしている
帰るぞ、その女は親にはなりえん」
「え?いやーでも…」
「さぁ坊ちゃま参りましょう帰っておフロに入りましょうねー」
「だっ…ちょっ…待てこらっ」
「行くよ、辰巳」
ベルちゃんを抱いたヒルダさんを追いかけるように歩き出すと、
「待ちなさいっ!!」
邦枝さんの声が聞こえ、振り返った
「あなた恥ずかしくないの?自分の子を人に押しつけたりして…」
「−フン。文句があるなら、腕をみがいて出直してくるんだな」
うっわ…邦枝さんとヒルダさん、ライバル意識ハンパない…
「…と、ぉ?」
再び襲ってきた目眩に足元がおぼつき、辰巳によさりかかってしまった
「あー…ごめん」
うるさく鳴る心臓を誤魔化すように慌てて離れようとしたが、辰巳に担がれてそれはかなわなかった
「は、離してっ私、重いから…ッ」
「重くないっての。つーか、ケガしてんじゃねーかよ…」
辰巳は小さく舌打ちをすると、スタスタと歩いて屋上を出た
そして、着いたのは辰巳の部屋で
「ちょっと待ってろよ」ベッドに座らされ、呆然としていると救急箱を持った辰巳が帰ってきた
「ったく…なんでさゆがケガしてんだよ」
「…邦枝さんのお友達と一緒にMK5に襲われまして」
「は!?」
救急箱を逆さまにしていた手を止めて、
「それでどうやって助かったんだよ?」
と尋ねてきた
「もーめっちゃピンチだったんだけど、夏目さんが助けてくれたの」
「夏目?」
「髪の毛が長い、神崎さんと一緒にいた人」
そう言えば、思い出したように「あぁ、あいつか」と呟いた
「カッコ良かったんだよ、夏目さんっ
MK5が弱いってのもあるんだろうけど、すぐにやっつけちゃって…ッ」
一瞬、時間が止まった気がした
夢?とか、なんで?なんて考えるヒマもなく、キスをしてきた辰巳を突き飛ばして急いで部屋を出た
「な、んで…?」
部屋の扉の前にへたり込んで小さく言葉を漏らした
辰巳にされたキスの名残が熱くって、そっと自分の唇を指でなぞってみた