−むかしむかしあるところに
それはそれはハンサムで
かっこよくて モテモテで
みんなに尊敬されまくっている
尊敬されまくっている
心優しい若者がいました

「ちょい待ち」
「まてまてまて」
「む?」


話を聞いてすぐ友達の古市とつっこむ

なんかもう全部おかしいから
自覚ないこいつが一番おかしいけど

「『む』じゃねーよ。誰が心優しくてもてもてだ」
「そうだよ、辰巳。開口一番に『全員土下座』って普通じゃないもん」

眉毛を整えてる古市と
椅子に座りながらケーキを食べている幼なじみの辰巳
そしてベッドに座って雑誌を読んでいる私

うーん、休みを実感できる時間だよね

「ばかめ。古市ばかめ。お前の母ちゃんでべそ!」
「でべそじゃねーよ。つか、俺だけでさゆはなしかよ」
「さゆはいいだろ」
あ、私はいいんだ

「んで…いいか?よく考えてみろ
オレが理由もなく人を土下座させる様な男だと思うか?」
「うん」古市、答えるの早すぎるから

「そうかそうか!続きが聞きたいか!!」
「いでででッギブギブッ」
「辰巳、古市死んじゃうよ」
「そう思うなら止めろよッ」
「人はそれを自業自得という」
「さゆーッ!!」

古市の怒りの叫びを聞きながら話は辰巳の回想に戻る

「…いや。本当さっきは調子こいてすみませんでした」
「石高の無敗伝説、男鹿くんがあまりにも無防備に寝てたもんだから…」
「ついチャンスかと思って…」
「チャンスじゃねーよ
お前、あれオレじゃなかったら死んでっぞ」

男鹿は相手を土下座させながらさっきまで自分が寝てた場所に突き刺さっている鉄骨を指差す

「いやー、本当にねぇ〜…死ねばよかったのに…」

「落ちるのかなーこの汚れ」
「ちょっ
ゲボゴボボッガボッゴボッ…死ぬっ」
男鹿が笑顔で相手を逆さまに持ち、顔を川につけて言っていると、

川上の方から大きな…

大きなおっさんが
どんぶらこっこ どんぶらこ

「はい、ストーップ!!」
古市がそう言うと一回話を止める辰巳

「えーと…何?この話…どこへもっていきたいの?
つーか何だ!?大きなおっさんって…」
「流れてきたんだから仕方あるまい…」
「流れてこないよ、そんなんッ!!」
上手く状況が理解できない私たちを余所に、辰巳はズッと飲み物を飲む

なんであんたは普通に受け入れたんだよ

「いや…確かにあれはオレも超びびったよ
実際他の奴らは一目散に逃げてったからな」
「それが普通だからッ」
「いやいや、てゆーかマジなの?これ…
ついてかなきゃいけないの?」
「おう。しっかりついてこい。つづきいくぞ」
「ちょい待ちっギリギリのリアリティーを模作するから」
古市と2人で頭に手を当てる

大きなおっさん、川原…

ホームレスのおっさんが、なんかこう…
足を滑らせて流されてきた

うん、これなら大丈夫…多分

「よしっこい!!」
「私もギリいけるっ」
「うむ…」

心優しい若者は、たった一人で大きなおっさんを引き上げた
そして−…二つに割ると、中から元気な男の子が
「「割るなーッ!!」」

キョトン、としている辰巳を見て大きく息を吸い込んで、

「「割、る、なーッ!!」」

古市と再び叫んだ
しかし、

「…若者はいいました
『おおっなんてかわいい赤ん坊』」
「もういいよッ!!無理無理っ
誰もついてこねーよ、そんな話!!読者なめんなッ!!」

古市は好きなだけ怒鳴ると冷静になったらしく、鏡を見ながら洋服を着ながら口を開いた

「−ったく。まじめに聞いて損したぜ
お前が珍しく相談があるとか言うから…」
「いやいや、まだ続きがあるんだって」
「…まだあるんだ」
はぁ、とため息をついて読んでいた雑誌を閉じてベッドに座る

「知るかッ!!オレはこれからデートなんだよ!!
お茶のんだらさっさと帰れッさゆも帰れッ」
「まぁまぁ、別にいいじゃない」
「そー言わずに聞けって。こっからが大事なんだから」
「このバカ幼なじみ共がッ!!つーか男鹿!!
そんなに続けたけりゃその赤ん坊連れてきてから言ってみろやボケッ」
「連れてきていいのか?」

辰巳は古市の言葉に、意外、とでも言いそうな表情をした

「おお。連れてこれるもんならなぁッ!!」

「辰巳ー、古市ー、私お手洗い行ってくんね」

長くなりそうだなぁ…

なんて思いながら廊下に出る

「ダーブッ」
「…は?」
足元から聞こえた声に、恐る恐る下を見ると小さな赤ちゃんがいた

緑色の髪の毛
無駄に悪い目つき
ふてぶてしい態度

「っ辰巳ぃぃぃッ!!」
「うおっさゆ!?」
勢いよく扉を開けると、飲み物を飲んでいた辰巳は軽く吹いて私を見てから、「あ」と小さく声を漏らした

「ちょっとっなんでこんな小さいコを廊下に置き去りにしてんのよ!?」
「いやーさゆが連れてきてくれたし、古市は話が早いし…ホント助かるわ」
辰巳は誇らしげに言うと、

「な、本当に赤ん坊だろ?」

と、さも当たり前かのように言った

「ダーッ」

私の腕の中にいる赤ちゃんの頭を撫でる

うーん…見れば見るほど辰巳に似てる…

心優しい若者は驚きました

頭を撫でていると、辰巳が唐突に話始めた

まだ続くの!?

心優しい若者は驚きました

男鹿の頭にドラヌエ的な選択肢が浮かぶ

→たたかう
にげる
おどす
なかす
ころす

まてまて。ころすはマズい

−おちつけ。オレは大人だ。大人として対応するのだ

男鹿はしゃがむと、テトテトと近づいてくる赤ん坊を見て

「やぁボク。迷子?」

くわっとした表情で言った

…ん?なんか違うな

イメージを思い浮かべると顔をごしごしと擦り、

「よぉーし、よしよし。こっちにおいでー」

再び言った

「何してんのよ、あんたは」
「……いや…」
そのあともいろいろ試し、けっきょく

「ゲヒャハハハハッボウズッ蝋人形にしてやろうかっっ!!」

めっさなついた

蝋人形で!?

辰巳の腕に移動した赤ちゃんを見て唖然

怖くなかったのかな…

そのとき、

「なついた…?フン、カン違いも甚だしいな」

いつの間にか古市の机に立っていた女の人が言った
そして、

「貴様ごときに坊ちゃまがなつくわけなかろう
死ね、ドブ男」

辰巳を見下して言った

いや、てかさ…

「え、どっから来たの?まずそこ降りましょうよ
あと、人の家に上がるときは靴脱ぎましょ」
「いや、さゆの家じゃねーし」
「うるさい、古市」
私が古市を睨んでいると、

「−フン」

女の人は机から降りると

「さぁ坊ちゃま、参りましょう
ヒルダがお迎えに上がりましたよ」
…お迎え?

しかし、

「ダ」
赤ちゃんは辰巳にしがみついた

「プッいやがってますなー」
ぅっわ…悪い顔ッ

「…えーと…坊ちゃま?ほらっ行きますよ!!
ちょっ…お離しください、そんなもの…ぼっちゃま!!」
…なんなんだ、この光景?

辰巳にしがみつく赤ちゃんと赤ちゃんを引っ張るヒルダさん
それに、

「はっはーまいったな、こりゃ」

笑っている辰巳
…めっさ変な光景なんだけど

「ちょっと辰巳、ヒルダさんは迎えに来たひ…」
人、と言おうとして思わず固まった

「ダーッ!!」

という赤ちゃんの泣き声と同時に、辰巳 ヒルダさん 赤ちゃんの3人に電流が流れた

あの赤ちゃんから電流流れましたけどぉぉぉッ!?


「−失礼しました。私、その赤子に仕える侍女悪魔、ヒルデガルダと申します」
悪魔?
悪魔ってあの…
黒くって尻尾の先が三角で命奪っちゃうやつ?

「−そしてその方は、我々魔族の王となられるお方
名を…

カイゼル・デ・エンペラーナ・ベルゼバブ4世」

…えと、つまりは

「つまり、魔王でございます」

やっぱりそうきちゃいますよねぇぇッ!!

「へ…へー…まぁアリだよね…アリ…」
あ、辰巳ショックうけてる
てか、隣で古市と辰巳、テレパシーで会話してません?

「え…えー…と、ヒルダさん…でしたっけ?
いいんですよ。そーゆー設定説明とかは」
あれを設定言うか

「オレ達この子を連れて帰ってさえくれたらそれでもう…はい」

まぁ…私たちじゃ育てらんないしね…

「−…いえ、それは無理でございます」

無理?

「何故ならばあなたは、選ばれてしまったのですから…」

ヒルダさんは辰巳を指差すと

「魔王の親に」

と言った

そして回想にはいる


「わし、明日から人間滅ぼす」

大魔王はそう言うと、

「なんかさーあいつらさーウザくない?
増えすぎってカンジでさー見ててキモイんですけど
全部消しとんだ方がスカッとするよねー」

と続けた
…ポヨポヨした音は無視しよう

「ですが大魔王様。明日は冥竜王の結婚式が…」
「まじでー、じゃ明後日!!明後日から絶対やる!!」
「明後日からは地獄チュパカブラ大捜索バスツアーです」
「えー超多忙じゃん、わし
あーじゃあもういいや、あいつにやらせよう。この前生まれたわしの息子、ヒルダ」
「はい」
「お前あいつ人間界につれてってさー
んで適当な人間に育てさせながら滅ぼせ、なっ!!
くそっサタンつえー」

「−というわけでございまして…」

いや…テキトー過ぎるでしょ大魔王ーッ!!
つか、ぷよぷよ!?

まぁ、あれだよね

「頑張って、辰巳」

肩に手を置きながら言えば、

「ちょっさゆッこの状況で逃げんのかよ!?」
「だって選ばれたのは辰巳だもん。私と古市関係ない」
「さゆの言う通りだ、とりあえず帰れ」
「なんだコイツら!?
くっ…冗談じゃねーぞっ何が魔王の親だ!!
ちょっとガキになつかれたくらいでふざけんなよ!!知るか、そんなもんッ
オレ達はぜってーやらねーからなッ!!」
「もともと私と古市はやる気ないんだけど」
「だまらっしゃいッ!!」

「…つまり断ると?」
「たりめーだ!!とっとと持って帰れや!!」
辰巳が赤ちゃんを机に置くと、

「そうですか…よかった…では死んで下さい」

ヒルダさんはめっちゃ綺麗な笑顔でなんとも不吉なことを言った

そしてその直後に破壊された古市の家
…あれれ?

辰巳と古市はもうとっくに逃げたのに
なんで私はまだ壊された古市の部屋にいるんだ?

状況が把握できなくて床についたままの手に視線を落とす

「はっ…情けない…」

いまだに震えている手を握りしめて窓の外に目を向ける


くそーあいつらあっさり置いてきやがった…ッ
絶対明日から無視してやるっ

てゆかさ、

「私も、殺されるんですかね?」

いつの間にか目の前に立っていたヒルダさんに尋ねれば、

「フン…あの男以外は殺すつもりはない」

至極楽しそうに窓から外に出て行った

そして、翌日には

幼なじみが魔王の親になってしまうだなんて、全く予想してなかったんだ



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -