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久し振りに晴れ間が気持ちよく覗いた今日なので、朝の内にと寝汗をしっかり吸ってしまった布団を窓際に干した。
西洋文化が強いシュテルンビルトで、未だに所謂煎餅布団を愛用しているのは、思いっきり天日に干せるのが大きい。日の光をしっかりと吸いこんだ布団に渾身の力でダイブするのが好きなのだ。
せっかくいい天気の休日だから、窓も全開にして空気も掃除して、ラフなリネンワンピースに着替える。これでオフの準備は完璧。ぶっちゃけ今日はもう外に出かけるつもりは毛頭無い。

天辺を回った太陽の頃合いをみて窓際のふとんにそのまま横たわる。ほどよくふくらんだ綿が体をやんわりと包み込んで、太陽の匂いがした。
ごろりと寝返りを打って、窓枠に区切られた久々の青空を覗く。ここ数日の雨の分を取り返すように澄んだ青がどこまでも続いていて、夏らしいもこもことした雲が流れている。普段なら聞こえてくる時計の秒針の音もどうでもよくなるくらい、こうして包まれる感覚が心地よかった。

迫り来る睡魔に大きく欠伸をして、溜めた怠惰の空気を吐き出しながら、いっそ畳む前にここで贅沢に一眠りでもするかと考えたところで携帯が盛大に呼び声を上げる。手探りで携帯をたぐり寄せて、相手を確認してぼたりとそれを落とす。


「だめだ眠い」


内容の文字の羅列も脳に届く頃には解けて溶ける。そうだこのふとんと日差しと匂いがいけない。メールだったから急ぎの用でもないだろう。この人なら多分急ぎなら電話をしてくるだろうし。働かない頭に無理矢理理由をくっつけて、私はあっさりと意識を手放した。


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「おいおい不用心だぞ…って起きないし」


休日までバタバタしているのはななしのいつものことなのでメールを送ったというのに、来るはずの返事はいつまで経っても来なかった。
ただななしが今日は完全オフだということはわかっていたから、とりあえず虎徹はななしの家まで脚を運んだ訳だが、家に着けば窓も玄関も開けっ放し、インターホンは鳴らしても誰も出てこず、電話をしてもいつまでも聞こえるのは呼び出すコール音だけ。何かあったのかと勘ぐるには屋内から感じる空気はあまりにのんきでここまで入ってみたのだが案の定。目の前の尋ね人は眠り姫と化していた。


「俺行くって言っといたよな…」


送信ボックスから昨日のメールを取り出して確認をする。そこの中には確かに今日訪問することを告げた文字の羅列があったし、受信ボックスにはそれに対する承諾の返事があった。
つまりすっかり忘れて寝こけている、と。そこまで思考が行き着いて虎徹は苦笑いと共にため息をついた。


「まぁそういうところがお前さんらしいけどねぇ」


日差しに当てるようにフローリングに敷かれた布団に、同じように腰を下ろす。
午後になって斜めに窓から差し込む太陽光は、なるほどこれは心地良い。確かに寝たくもなる。が、


「おーいななしちゃんやーい」
「ぎゃっつめたっ……虎徹さん?」
「はいおはよう」


来るついでにと手土産に買ったジェラートのカップをななしの額に押しつける。寝ててもいいがせっかくの土産が溶けても残念だ。


「おは、あれ?」
「俺昨日ちゃんと連絡入れたよね?あと今日も」
「えーと」
「忘れてたろ?すっきりと。はいお土産」
「…あ、これこないだ食べたいって言ったところの」
「うん、寝かせといてもよかったんだけど溶けちゃうだろ」


はい、とプラスチックのスプーンを一緒に手渡せば嬉しそうに受け取り、そのまままたごろりと俯せに転がる。どうやらななしはふとんから離れるつもりもないらしい。
軽く行儀が悪いと虎徹も咎めてみたものの聞き入れる気はないようで、嬉々としてななしはジェラートを口に運び始めた。


「うん、おいしい」
「そりゃ買ってきた甲斐がありました」
「虎徹さんは?」
「一口で十分」


ななしに倣ってごろりとふとんに転がった虎徹に問えば、ハンチングで目を隠して既に寝る体勢に入っている。ん、と開かれた口にジェラートを放ってやれば、うまいと同じ感想を言った。


「こりゃ昼寝もしたくなるわ」
「外に出たくなくなりますよねぇ」
「おじさんの腕枕で良ければ提供しますけど」
「固そう」


枕にできるように伸ばされた虎徹の腕に冷えたジェラートのカップを置けば冷たいと非難の声があがるが、言葉だけで引き下げるつもりはないらしい。
背中にあたる日差しとふわふわと体を包む綿の感触に、ならばせっかくの申し出をありがたく頂戴するかと、残ったジェラートを口に運んでのびをする。


「じゃあ今日は二人で午睡を貪りますか」


スプーンとカップを適当に投げ置いて、腕を拝借。
倒れ込むように仰向けになれば、逆らいがたい日差しの匂いがした。



(こら寝るなら玄関戸締まりしなさい)
(ええー虎徹さんいるし)
(そういう問題じゃないの)
(ていうか虎徹さんからお日様の匂いがする)

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(110728)


ユズル 様リクエスト
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