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CMの撮影、そして出動の後にミーティング。で、その後細かい報告書を仕上げて軽く食事をして帰宅をする。ウロボロスの一件が片づいてからというもの、ここ数ヶ月は怒濤の忙しさで目が回りそうだ。以前はヒーローTVがメインで、忙しいと言ったってバディのバーナビーばかりだった筈なのに。トレーニングに充てる時間はまだあるものの、自宅の必要性など「寝る」くらいにしか最近感じられないのが現状だ。充実しているといった感覚はあるのだ。バディであるバーナビーがこちらをきちんと向いてくれたおかげでヒーローとしての仕事も、会社としての仕事も順調で。引退間近とまで囁かれかねなかったあの日を思えば、今は順風満帆、きっと、多分。
時計の針が頂点を回りそうな頃にやっと自宅に辿り着き車のエンジンを止めると、誰もいないはずの我が家に明かりが灯っている。

リビングに誰か居る。まさか泥棒ならばわざわざ明かりなどつけないだろうから、必然的に誰がいるかは絞られてくる訳だが…携帯の履歴を覗いても特に何も入ってはおらず、思わず小さくため息を零した。

いつ来ても構わないと言ってはおいたが、男やもめの一人暮らしの家など危険きわまりない。汚れ的な意味で。

サイドブレーキを踏みつけてから車を降りて玄関へと向かう。玄関から見える灯りはどうやらリビングのひとつだけのようで、磨りガラスから遠目に見えるぼんやりとしたオレンジ色を眺めて一旦鍵を差してみた。どうやら律儀に鍵は閉めてあったようで、回せば機構が動いてガチャリと施錠が解かれる。そうっと中に感づかれないようにドアノブを回して自宅に滑り込み、耳を澄ませれば自分の好みのレコードの音と、なにやら電子音が僅かに飛び込んでくる。
まるでこちらが忍び込んでいるようだ、足音を忍ばせて一歩、また一歩と灯りの下に顔をだして、はて、と思う。てっきり相手がソファに座り込んでいるのかと思いこんでいたのだが、その姿が見あたらない。けれど動き続けるテレビゲーム画面が不思議で、ソファを上からのぞき込むと仰向けに転がった少女がそこにいた。


「こぉら。行儀の悪い」
「あ、おかえりなさい」
「ただいま…ってそうじゃない。いつでも来ていいとは言ったけど連絡しなさいよ」
「だぁって」


のびのびとソファを占領するように四肢を投げ出して、コントローラーを握った少女がごねる。机の上には彼女が持ち込んだのだろうゲーム機と、炭酸飲料。菓子がいくつかとファッション雑紙。自分が帰ってこなければ多分夜通しここにいたに違いない。


「鍵も掛けておきましたし、別にいたずらとかしてないですよ?」
「まぁそれがわかってるからおじさんななしちゃんに鍵あげてるんだけどね?」
「あっゲームオーバー」


画面に悲壮な音楽と共にゲームオーバーの文字が流れ、少女…もといななしがやっと起きあがった。相当長い時間その姿勢でいたのだろう、せっかくの長い髪をぐちゃぐちゃにしてしまっている。

半ば諦めたように彼女の隣りに座ってその髪を手櫛で整えると、ななしは大人しくされるがままになりながら目を細めた。


「もう日付変わるぞ。もしかして夜通しここにいるつもりだったのか?」
「とりあえずそのつもりで」
「女の子が夜中まで遊ぶもんじゃありません」
「女の子って…私とっくに成人してますけど」


ななしがペットボトル飲料を器用に片手で空けながら、もう片方の手でゲーム機をしまう。
両手でやりなさいと、口だけの注意をしながら開けられたスナック菓子を虎徹はつまむと、置かれた雑紙の特集見出しが目に入った。


「あ、この特集号ななしちゃん買ってくれたんだ」
「ああ、はい、まぁ」


確か、一月前に撮影を行った物で、バーナビーとのインタビュー記事が数ページにわたって特集されたものだ。確か会社に見本誌が届いていた筈だが、はてどこにやったか。20代向けの女性ファッション誌など虎徹自身興味がなかったので、手に取る機会もなかったのだけれど。それを手に取ればいつかの自分がカメラに満面の笑みを向けていて、特集のタイトルがこれでもかと目に飛び込んでくる。


「俺もこういうのに載る日がくるとはねぇ」
「渋いオジサマもイケメンバーナビーもキャーステキー、美しきコンビ愛!だそうですよそのインタビュアー」
「おじさん何インタビューされたか覚えてないや…バニーが何言ったかは大体覚えてるけど…うぉっ?!」


そこまで言いかけて、ごす、という擬音が相応しい衝撃が腿にかかる。何事かと自らの足元を見ればヒカルの頭が乗せられていて、乗せた上ぐりぐりというか、ごすごすというか、何か思うことをそのままあたるように押しつけてきてかなり痛い上に表情が伺えない。


「いたたたた、痛いって。ななしちゃーん?」

とりあえず名前を呼べば収まったので、おそるおそるご機嫌取りに頭を撫でてみた。

猫っ毛が指に絡んでほどけて、娘の感触を思い出す。歳は倍以上違う癖に、細かいところはどうにも子供っぽいというか、発育途中の様にすら感じる。中身はしっかりとした大人だということもわかっているのだけれど。

少しは原因不明の機嫌も降下もとまっただろうか。もう一度名前を呼ぶと、ようやく顔がこちらに向けられた。


「ちょっとお嬢さん。どうしたの」
「だって、お嬢さんは、虎徹さんが、バーナビーばっかりかまうので、つまんないんです」


なんだこのかわいい生き物は。ぶつぶつとその後に続く文句を聞けば、「連絡してもどうせ出ない」だとか「雑紙でもテレビでもバーナビーの話ばっかり」だとか、要するに構って頂けないことに対する不満ばかりで。

(要は拗ねてるのか、これは)

(わかりやすく拗ねる分マシかね)


ため息をつきたいのにふつふつと、愛おしく思えてきてしまって、どうしても顔がにやける。

思わず口元をおさえれば、間髪入れずに頭突きが腹部にお見舞いされて息が止まった。


「なににやけてんですか」「いやいやいや、おじさんななしちゃんを今超甘やかしたいなーって」
「…どのくらい」
「んー、ハグしてちゅーしてわしゃわしゃーってしたいくらい」


そう言えば、ぎぎっと睨め付けながら「すればいいじゃないですか」と腕を子供の様に伸ばされればもう笑うしかなくて。
では言葉の通りにまずはありったけのハグから。


(ぎゃー折れる折れる!)
(このこのー)
(人のこと犬か何かと思ってやしませんか!)
(かわいいかわいいお嬢さんですよー)
(うわああんバーナビーの馬鹿!)
(こぉら、バニーは悪かないだろ)


______
(110715)
にいな様リクエスト。

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