お願いごとのゆび


(虎徹男やもめ設定)



「要らないですよ、婚約指輪とか。そういうの」


そういうと、虎徹さんは変な、満足のいかない顔をする。だってそういうものは要らないのだ。
娘である楓ちゃんとは仲がいい。でも私は彼女のママにはなれないのだ。女だから、余計にそう思う。ママっぽくはなれるかもしれない。でもママじゃないから、ママ友かな、うん?やっぱり違うかな。


「でも、やっぱりさ」
「いいんです。私、虎徹さんにその指輪はずしてほしくないから」

食い下がる虎徹さんに私は笑う。
だって私は、もちろん私の事も、前の奥さんの事も大事にしてて欲しいのだ。私の大好きなのは、そういう虎徹さんなのだ。
私だけ見てって言いたくない。どうせなら全てを独占する指輪の代わりに、花瓶の花が枯れる前に必ず新しい花を挿し続けてくれる方がきっと素敵だ。


「外して欲しくないって、ななし」
「違いますよ。もちろん虎徹さんのこと好きです。もし、奥さんの気持ちを整理するために私に指輪を買ってくれるのだったら、それはなんか違うんです。私は虎徹さんの奥さんも大切にしたい。だって虎徹さんと楓ちゃんの大好きな人だから」


まっすぐにそういうと、虎徹さんは何度かぱちぱちと瞬きをすると目を逸らして頭をかいた。
ちょっと照れくさそうにしてる顔は歳よりうんと子供っぽくて、私と彼の年の差を埋めてくれる気がして好きだ。
何度もうーん、とか、でもなぁ、とかはっきりしない言葉をいくつも並べながら腕を組む。私たちの前には少しだけいつものプレゼントには高い値札のついたアクセサリーコーナー。きっと私の為に買うつもりで来たんだろう。もうその気持ちだけで、嬉しいのだけど。


「じゃあ、これ」


少し探して指さしたのは、一番安くて小さい指輪。


「お、どれどれ…これピンキーだけどいいのか?」
「私のと、虎徹さんの。お揃いで」


あなたの右手の小指だけ、私だけにプレゼントしてくれますか?とお願いすれば、嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をして、よろこんで、と言ってくれた。

約束したいのだ。
貴方を全部全部愛するって。




(お願いごとのゆび)

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