君に悪者は似合わない


『せっかく覚えたのにっ!』

画面の向こうからよくわからない嘆きと一緒に、とにかく彼にしては珍しく不満をぶちまけたような突風が起こった。
そういえば今日はバーナビーのサプライズバースデーに一芝居打つと言っていたはずではなかったか。はて、と首を傾げながら私はテレビをじっと眺めていた。更にそういえば、バーナビー相手に窃盗団の真似をするらしい。自分が悪の親玉役なのだと嬉々としてして語っていたけれど、一応彼はスーパーヒーローな訳で、更に言えば名前がグッドマンな彼はバッドマンになれるんだろうかとちょっとばかり心配だった。

サプライズ、上手くいったのかな。本当の窃盗団を追うヒーロー活劇には特に感慨も高揚なく、私はバーナビーのバースデーの行方を気にしていた。




「あらあらまぁまぁ」

お疲れさまも言う間もなく、帰ってきた彼は両腕を広げて私に抱きついて、私はソファに背中から倒れ込む。
それがまるで拗ねた駄々っ子のようで、飼い主に置いていかれた大きな犬のようで、私は笑いながら彼の広い背中をあやす。

「どうしたの?今日折角活躍したのに」


バーナビーと虎鉄に主犯持ってかれちゃったのは残念だったけど、と笑えばそれは彼らの素晴らしい連携のたまものだからいいんだ!とがばりと私から起きあがって言う。

「ワイルド君はバーナビー君にポイントをあげたらしいよ」
「あら、虎鉄も珍しく気が利いてるわね。じゃあサプライズも成功したんでしょ」
「それが」


くるくるくる、表情が回る。
彼に犬のあれそれがあったならきっと耳は垂れ耳の、尾はふさふさ。今だったらそれが限界までぴったり体にそっちゃって、もふもふの毛並みはしゅんと垂れているだろう!
みるみる悲しそうに眉を下げた彼は、本当に大きな犬そのものだ。


「途中で本物が現れて…失敗してしまったんだ」
「えっ失敗しちゃったの?」
「せっかく練習して、ななしにも手伝って貰って覚えたのに…!」
「あらま、じゃあ1人待ってたの?出番を?」
「そのうち出動要請があったから出て行ったんだけどね…みんなと失敗だったけどプレゼントは渡したよ」


少し癖のあるブロンドを撫でながら、テレビから聞こえた嘆きはそれだったのかと合点する。ついアドリブを勝手に入れそうになるキースを宥めながら前日まで台詞を手伝っていたのに。頑張っている姿をみていただけにちょっと可哀相だ。


「渡せたのならよかったじゃない。喜んでた?」
「喜んでたと思うよ」
「そう、良かったわね。でも私ちょっと貴方には可哀相だけどほっとしてるの」
「なぜだい?」
「だってグッドマンがバッドマンになるなんて想像できないわ!」


そうでしょ、とにっこり笑って鼻にキスをして。


「私のグッドマンはキング・オブ・ヒーローなんだから」


そういえば、大好きな貴方の笑顔ができあがり。
ご機嫌でじゃれるようにキスの嵐を落とす彼に、私も笑いながら同じ数だけお返しした。
きっと見えない彼の尻尾と耳はぴんと立ってもふもふしているに違いない。







(そういえばバイソン君が捕まってしまったんだけど)
(えっ?!)





(君に悪者は似合わない)

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