ヒーローゴシップ


「明日から2日間ほど、そっとしておいてほしいんです」
「2日間?別に珍しいことじゃないでしょう」
「そうなんですけど、その、家に来るのも、なしで」
「それも珍しい話ではないわよ」
「そう、ですよね」


なんだ歯切れの悪い。お互いがお互いの仕事を優先させるのは今に始まったことではないし、公休日で無い限りは会社にくれば自然と顔を合わせることになる。
そもそも自分達の関係を知っているのは同じヒーロー事業部の虎徹くらいなもので、それ以外にはお互いのビジネスライクな面が浸透しているはずだ。
ブリーフケースを持ち直してバーナビーに振り返れば、社内通路の少し遠くに通行証を首から下げたテレビ局の人間がバーナビーを見つけたらしく歩幅を早めたのがわかった。


「…お忙しいみたいですね。後でメールでも結構なので件の詳細、いただけます?」
「え、ああ。いえ、終業後お時間いただけますか。10分程度で済みますので、打ち合わせをできたら今日中にしたいんです」
「わかりました。」


私が振り向き様に口調を変えたことに感づいたのか、バーナビーも倣って口を揃える。
こんなことも慣れたもので、だんだんと近づくヒーローTV関係者には聞こえても業務連絡じみたやりとりくらいのものだろう。バーナビーさん、と声を掛ける前に会釈をすれば向こうも気付いたのか少し固くなってこちらに頭を下げた。


「お疲れさまです。取材ですか?」
「ええ、今度はヒーロー全員に密着取材をするんですよ。その打ち合わせに」
「ヒーロー全員に!また大がかりな企画ですね」


技術管理のななしと申します、と名刺を差し出せば、ああ!と気が付いて相手も名刺を差し出して交換する。多少大仰に反応しておいた方がきっと良いのだろう、以前のテレビ密着は爆弾でごたごたしてしまったし今一度話題が欲しいのはこちらもテレビ側も同じらしい。
ちらりと名前と顔を行き来させ、笑顔を傾ける。


「質問も盛り沢山、2日間かけてヒーローの素顔に迫る内容になってますから」
「それは楽しみです。特に弊社のコンビには注目も集まっていますし。期待していますね」
「そうなんです。特にバーナビーさんはファンも多いですから、大見出しで行きますよ」
「私もバーナビーのプライベートには興味ありますわ」


浮かれた様子のスタッフにそういうことかと合点して、わざと柔らかく言えばバーナビーの視線がやや後方からちくりと刺さる。なにを今更、と言いたげな眼鏡の奥の瞳を軽く受け流し、それではとヒールを打ち鳴らす。


「ああ、タイガーの特集も是非。うちはコンビが売りですので」
「もちろんです」
「バーナビーさん、では後程ラウンジで打ち合わせお願いします」


途中の騒ぎの直前まで放映された密着番組では、まだ自分とバーナビーは関係を持っていなかった。だからこそ当時は見せられたものが今になって見せていいものなのか悩んでいるのだろう。
元より生活感のない相手、その生活の場に別段私という彩りを添えているわけでもないから私は特に焦りはしない。私がそれを添えるのは彼の心情の中になのだから。
もし彼の生活の空間に出ているとしたらバーナビーの、言い方は悪いが自業自得。


「存分に悩んでちょうだいな」

私みたいな女、好きになったんだから。
それも少しの優越感だろう。


(頼むから2日間会っても、変なこと言ったりおもしろがったりしないでくださいよ)
(あなたも寂しがらないでね、バーニィ・ボーイ)



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(110908)

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