正義の声がきこえるかい


(キャラソンネタ)



「じゃん」


珍しく、上機嫌を体で表したようにななしがヒーロー事業部に顔を出し、おじさんや経理が居ないのを確認すると四角い何かを僕の目の前に掲げて見せた。
とりあえずCDだということはわかったので、では彼女の贔屓にしているアーティストかなにかかとタイトルをまじまじと眺めれば背中に汗がぶわりとにじみ出た。


「っなんで貴女が持ってるんですか!」


慌てて眼前のそれを奪おうとするも、むなしく腕は空を切り、ならば抱き寄せてしまえと踏み出した脚もかなしかな失敗に終わった。
彼女が見せてきたのは先日リリースしたCDで、いわゆるプロモーション活動の一環で収録したものだ。
話は会社のことだし、広告も打ったのだから当然社員である彼女に伝わってたにしろ、こういうことに興味のない人だと思っていたから持っていたことに気が動転もする。
自分とおじさんの映ったCDジャケットを両手で可愛らしく持ちながら(普段はこんなそぶりなど見せない大人なくせに)、彼女はひらひらと部署内を僕から逃げ回る。


「ちょ、っと!聴いたんですか?…その顔は聴いたんでしょう!貴女って人は!」
「ハンサムが今更何を照れてるのかしら。プロモーションの一環でしょう」
「貴女が聴いてるから問題なんです!」
「正義の声が街に響くー」
「歌わないでください!」


自分の歌った旋律を彼女の落ち着いた声が楽しそうになぞる。
もうそれだけで正直顔から火が出そうだ。別にファンや上司や会社の人間が聴くのはいい、彼女だけには一番聞いて欲しくなかった。彼女にだけは。
追いかけても無駄だとわかり、息をゆっくりと吐き出して眼鏡のブリッジに手をかける。聴いたのならしょうがない。もうこの楽しそうなヒカルから逃げようがない。


「オペラかクラシックしか聴かないって言ってたバーニィがねぇ」
「…仕事だからしょうがないでしょう」
「技術部の方からも好評だったわよ。ブルーローズも真っ青って」


どうも、と言葉だけを返す。しかしこういうものを買う人だとは思っていなかったのだが。情報はおじさん辺りか友人からだろうか。


「ちゃんと自分でショップで買ったわよ。虎徹さんも黙ってるから、頼れないと思って」
「言ってくれれば差し上げますよ…」
「嘘おっしゃい」


リリース日はぐらかしてたでしょ、と言われればもう黙るしかない。さっきは散々逃げ回っていたくせに今度は彼女から僕に歩み寄り、彩られた爪先を僕の髪に差し込む。


「良い曲じゃない?よく頑張りました」
「…ありがとうございます」


細めた切れ長のダークブラウンにゆるく見つめられる。
上から目線ではあるものの、てっきりからかわれるだけだと思っていたので思わず視線が下がる。


「だって貴方も勿論好きだけど、私TIGER&BARNABYのファンでもあるの」


そのまま伸びた睫毛に手招かれるように視線を合わせ、するりと頬に下ろされた手を取れば彼女はひときわ楽しそうにほほえんで「ね?」と囁く。
じわりとしたよくわからない悔しさから口をひき結べば、今度は細い指が口元に触れてそのまま視界が長い睫毛に埋められた。



(だから帰りの車でかけていい?)
(後生ですからやめてください)


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(110826)

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