ミス・ピンヒールのすきなもの
4.ミス・ピンヒールが好きなもの
「見たわよ」 「はぁ?」
必要な書類を取りに来いと呼びつけられて、しょうがなしに赴けば彼女は存外上機嫌に自分を迎え入れた。 バーナビーを見た、というのならおそらくヒーローTVのことでいいだろう。しかし、初対面であれだけ興味もないだの名前も覚えないだのと言われたから、自分に興味があるから見たわけではないだろう。じゃあなにを見たのかと視線を送れば、バーナビーの反応などお構いなしにヒカルはウォルナットの髪を揺らしてバーナビーに背を向けた。
「ダイヤモンド野郎はどうでもよかったんだけど、アレはよかったわね」 「あれ?」 「ギミック!」
なるほど、スーツを見ていたのか。僅かに頬が紅潮した後ろ姿が珍しく、眺めながらバーナビーは先日の事件を思い出す。 偶然とはいえ、局の視聴率には貢献できたのではないかと思うが、裏では誕生日がどうのと、なんとも騒がしい一日だった気がする。 結果サプライズでGOODLUCK MODEが斉藤から備えつけられた訳で彼女も機嫌がいいわけだが。少なくとも罵声が聞こえてこないだけ精神衛生上よろしい。 ボードにクリップされた書類の項目を埋めながら、さらさらとななしは綺麗な筆記体でサインをしていく。
「GOODLUCK MODEですか」 「ああ!そういう名前なの」 「残念ながらパワーがアップするわけじゃないみたいですよ」 「そうでしょうね。司法局で管理されてるから。でもあれは素晴らしいわ」
はい、と封筒に折られた書類をつめこんで渡される。 別に自分に向けられた訳では決してないのだが、そのヘーゼルの瞳が初めて見るくらいに柔らかく微笑んでいるのを見てバーナビーは瞠目した。どうやらギミックの出来やスーツの性能美に関してのことになると高揚するのだろう、バーナビーに対する仕草も幾分かやわらかい。 思わず見つめたバーナビーの視線に気付いたそれは、すぐに気むずかしいものになってしまったが。
「………」 「なに」 「貴女でもはしゃぐんだなと」 「まぁね、良い物を見れたら誰でもそうじゃない?」
一瞬。一瞬だけななしの瞳が開かれ、ぽかんとした表情が女性らしさを意識させる。 初めてみた表情にバーナビーがつられて目を見開くと、さっさと兎はお家にかえんなさい、書類の外れたボードで思い切りこづかれ、彼女はそれきり奥のラボに消えてしまった。
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