ミス・ピンヒール


移動用のバイクにまたがったまま、はるか後方に拡がるシュテルンビルトの街並みを小高い丘から見下ろす。少し彩度の落ちた遠景を眺めて、バーナビーは額にまとわりつく湿気を軽くぬぐった。
シュテルンメダイユから一時間はとばしただろうか、何もこんな僻地にラボなど構えなくてもと、上司命令とは云えわざわざ自分が足を運ばなければならない現実にため息をつく。


「業務を委託?」
「前々から頼んでたんだけどねぇ。コーディネーターが逃げちゃってさ。ほら、バーナビー君はまだ顔を合わせたことなかっただろうから、お願いしようかなと思って」


出社早々上司であるロイズに呼び出されたと思えば、一言でいえば『出張』、ヒーロースーツのメンテナンス・開発を委託している技術者に会いに行って欲しいということらしかった。
ただ耳に引っかかったのが、前任が逃げたということなのだが、どうやらその点については言及しても答えてくれそうにはない。
万が一出動があった場合も、ワイルドタイガーに一応一任するということで話がついているらしく、そうなればバーナビーに断る理由もなかった。


「まぁスーツを渡すのと名刺渡すくらいで済むと思うから」


新人ならではの挨拶回りのようなものだろうと、軽く請け負ったところまではよかった。
ナビに目的地を入れた時に、シュテルンビルトのマップの端も端にある目的地マークを見て思わず眉間に指を充てたのは言うまでもない。



ここで止まっていても仕事は終わらない。
気を取り直してエンジンをふかせ、ラボへの一本道を走らせた。


(110729)

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