ゆっくりとつむいだはなし


〈ゆっくりとつむぐはなし〉の続きみたいな。




あのね、と彼女は切り出す時に話すのが癖だと思う。

あのね、昨日また行ってきたのだけど。と柔らかい声が電話越しに聞こえ、俺はゆっくりと「それで?」と返すのがいつものやりとりになっていた。
ななしは年下で離れていて、どちらかといえばバーナビーの方が近いかもしれない。
出会った時は友恵によく似ているとぎくりと思った時もあったが、話せば話すほど友恵とは違っていた。どこか娘のようであり、他人のようであり、独特の柔らかさをもったのがななしだった。

そしていつでもどこでもよく笑うななしはいつしか俺の隣によく立つようになり、何を思ったか俺は実家にななしを連れて行ったことがある。
本当に、何を思ったのか自分でもわからない。でも、よくよく考えてみれば友恵に会わせたかったような気がする。多分友恵が生前会えていたらさぞかしいい友人になれたに違いないと、そう思うのだ。流石に少し気後れしたような風ではあったけれど、ななしはすぐにななしになって眩しい笑顔を振りまいていた。友恵にもきちんと。

それからななしは何度か一緒に実家に帰省し、楓とも知らない内に仲良くなったようだった。その姿は歳の離れた姉妹のようで、母も兄も最初は訝しむように見ていたが、ななしの振る舞いにそんな気持ちも消えたようだった。

そんなことが何度か続き、俺はアポロンメディアに移籍となりバーナビーという相棒を得た。スーパールーキーという肩書きを持つバーナビーを相棒に迎えたことにより仕事は更に忙しさを増し、メディアへの露出が増えていくことに反比例して実家に戻る時間が当然失われていく。その内彼女は一人で家族に会いに行くようになり、行く度にこうして連絡を入れてくるのが定例になっていた。


「元気な様子だったか?」
『ええ、バーナビーが好きなのも相変わらず』
「悪いな、俺が行ければいいんだけど」
『私は小さな友達に会いに行ってるんだもの』
「…そっか」


柔く響く声が胸に溶ける。
娘の近況を聞きながら、次に楓に会った時にはどうしようかと思考を巡らせて、次はバーナビーの何かにするかと思いつく。今の相棒なら一緒に来てくれそうなものだが、流石にバーナビーを連れて行くのはまずかろうから。
すると、「虎徹さん」とゆるりと電話越しに紡がれる。


「うん?」
「あのね、」


その声が大切なものの一つに数えられるのはいつからだろう。
丸く優しく、変わらず俺も楓も友恵も、家族も包んでくれる笑顔を大切だと思ったのはいつからだったか。
友恵との指輪は外さないで欲しいと、ただひとつ我が儘をといって願ったななしは家族と同じくらい、かけがえなく優しいもののひとつになった。


『楓ちゃん、ワイルドタイガーもちょっとかっこいい、だって』


楓にとっても、家族にとっても、そして友恵にとってもそうなってほしいと、今は願う。



(まじか)
(ちょっと、が取れるといいわね)

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