アイアム・ヒーロー!


マイ・リトルヒーロー!のイワン視点。




「ああ、もう。男の子なんだからそんなに泣かないの」


いつまでたっても泣きやまない僕にしびれを切らしたななしがやってきて20分。涙の乾かない僕の頬を一度思いっきり伸ばしてから、抱きしめられる。
ななしの服装はブラウスとタイトスカートで、多分仕事上がりそのままに来てくれたんだろう、仕事の時に付けている香水のにおいがした。


「こっちおいで!正座!」
「え、え?」


ラグを指さされて、わけもわからず正座をさせられると仁王立ちになったななしが目に入る。


「もう、イワンは泣き虫ヒーローなんだから!」
「ご、ごめ」


だめだ、面と向かってななしに言われると余計つらい。
反射で俯くと、ふにゃっと頭を包むように柔らかい感触で包まれる。


「あなたが自分ばっか否定してたら私はなんなの?」


ぎゅうとななしが僕の頭を抱え込んで、ゆっくりと髪を撫でる。

「え、ななし?」
「イワンのこと信じてる私はなんな訳?こんなんじゃ私馬鹿みたいじゃない」


どんどん力が強くなっていく。ふにゃっとしてるのは敢えて言ってしまうと彼女の胸な訳で…それが思い切り押しつけられていて…状況があまりにばたばたと目まぐるしくてわからない。
ふにふにしててふわふわしてて、やかましい。あとは自分の心臓が煩すぎるってことだ。


「あの、えっと、ななし…胸、が」
「だからイワンはちょっと自信がなさすぎなのよ。そりゃ見切れてるだけかもしれないけど、それだって企業には必要じゃない!なによだけって!」
「いや事実そうだ…」
「黙って」
「はい…」


あんまりに真剣なので、下手に反論したら多分叩かれるくらい覚悟しなくてはいけないかもしれない。
意識してはいけないふにふにとした感触を忘れようと、ぎゅっと目を閉じる。


「ヒーローになる資格なんてなかったらどうして今イワンは折紙サイクロンで活躍してるのよ!イワンはちゃんと会社から要求されたことをこなしてるわ!ああやって傷つくこと平気でいう人がいる分だけあんたのことちゃんと好きで信じてる人いるんだから!聞いてる?!」
「聞いてるよ…」
「ならいい!」


ネガティブな僕に、強気すぎる彼女。どうして今までこうやって一緒に居て来れたか自分でもわからない。
けれど彼女は叱りはするけれど拒絶はしなかった。もしかたらそれは彼女の庇護欲からの行動なのかもしれないけれど、僕にとってのななしはいつだってヒーローだった。


「ね、ねぇななし」
「何?」
「いつも、ごめん。弱気だし、その、頼りないし…いつもななしに叱って貰ってる」


頭上から、盛大なため息が聞こえる。
その後にゆっくりと胸が動いてななしは息を吸うと、さっきの勢いは消えて穏やかに「今更よ」と言った。


「前からそうでしょ。イワンが普段がんばってる分、私がイワンに返したいだけ」


でも僕は、そう否定の言葉に重ねるように、ななしはやんわりと腕を離して僕の髪にキスをする。


「泣き虫でも、後ろ向きでも、私のヒーローはイワンなんだから」


そう言われてやっと見れたななしの顔が優しすぎて、頷くと同時にぽたりとまた涙が落ちた。

慌てたななしがまたあらん限りの力で僕を抱きしめるまで1秒。
僕の息ができなくなるまで3秒。
僕の涙が止まるまで10秒。



(応援してるからね。ちゃんと先輩してくるんだよ?)
(う、うん頑張るよ…あと言いづらいんだけど)
(何?)
(さっきから胸が…痛っ!いたいいたいいたいごめん)


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(110621)

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