朝、目が覚めると見慣れた天井があって、カーテンの隙間から入ってくる太陽の光が心地よくて、一日が始まったんだなあ、なんて頭で考える。眠気があっても何年も同じことを繰り返せば、身体は自然とそれを覚え反応するようになるわけで。時計を見ると、いつもより少し早い六時五分前を示している。二度寝をして遅刻をするのは勿体ないし、このまま布団から出ることにしよう。パジャマのボタンに手をかけ、今日の予定と時間割をぼんやりと思い浮かべながら、欠伸をひとつした。
(あ、しまった……確か漢字の小テストをやるって先生言ってたなあ)
学校に行くまでの時間でなんとかしよう。まずは今日の仕込みと、着替えだ。一度頭がクリアになると、のろのろした動きが打って変わって素早くなる。

しかし人生、そう上手くは出来ていない。全く無駄のない計画は、大きな足音によって簡単に打ち壊された。

バーン!

文字にするなら、これだ。まるで漫画の効果音のように、ドアが開いた。そして同時に、何かがドアの向こうから勢いよく入ってくる。


「うわ、あ!」


思わず口から飛び出た裏声と、急に増えた重みに耐えられなくなって倒れる自分の身体は、我ながらなんて情けなくて恥ずかしいんだろう!


「おはよう虎丸! 今日もあたしが一番最初!?」


俺の上で嬉しそうに笑う女の子は、開口一番にそう言った。
最初、というのは朝目が覚めて、今日が始まって一番最初に会ったのは自分か、という意味だ。いつから始めたのかもう思い出せないけれど、少なくとも物心つく前からこの行動を彼女はしていた気がする。


「うん、一番だよ……とりあえず、どいてよ弥優姉ちゃん」


頭は長年の経験(こんな経験はいらない)と、普段培ってきた反射神経で死守したものの、全体重と共に平気で俺に抱きつくという、危険極まりない行為を朝からされるのは、正直きつい……とは言えない俺は、今日も弥優姉ちゃんの下で寝っころがっている。


「えー」
「えーじゃない」
「だって虎丸」
「ちょ、ちょっと弥優姉ちゃ……!」


いきなり真面目な顔になったかと思うと、弥優姉ちゃんはそのまま顔を俺に近づけてきた。
待って、それはいくら幼馴染みでも、ていうか順番がいろいろと間違ってるって!


「……」
「……弥優姉ちゃん?」
「虎丸」
「うん?」
「朝、起きて人に会ったら……?」


真面目な表情のまま、弥優姉ちゃんは口だけを動かした。俺達の顔の間の距離、僅か数センチ。


「え、ああ……おはよう弥優姉ちゃん」
「よし! おはよう虎丸!」
「ちょ、だから抱きつかないでってば!」


弥優姉ちゃんがまた抱きついてきて、俺の心臓はまた飛び跳ねて、そんな中、俺の騒がしい一日は始まる。いい加減、パジャマから着替えたいなあ。



100322