水曜日の約束

 
 
5限目は体育だった。

ジャージに着替えて校庭に出てから、タオルを教室に置いてきてしまったことに気が付いた。別に無ければいけないものでもないのだが、意識するとどうしても必要な気がしてしまう。授業開始まではあと5分あるし、走れば間に合うだろう。そう判断して、また校内へと足を向けた。
しかし靴を履き替えなければならないのが面倒なところではあるなぁ、とは思った。

教室に行く途中の渡り廊下で、しゃがみ込んで煙草を吸うオサムちゃんを発見した。そっと忍び寄る。
なんだか彼はぼーっとしていて、その視線の先では園芸委員が植えた色とりどりのチューリップが五分咲きのまま風に揺れていた。思わず噴き出しそうになる。この人でも花を愛でたりするのか。いやきっと違う。どうせ頭の中では、昼の競馬の結果についてああだこうだ考えているのだろう。
彼は生きている限り怠惰で情緒に疎いままだろうから、せっかくの春の陽気は代わりに俺が満喫しておいてあげることにした。

結局あの後、いつまで絶っても俺に気付かないオサムちゃんに焦れて声をかけたら思いがけず話が弾んでしまい、5限目はサボる事になってしまった。
オサムちゃんは元々その時間は授業が入っていなかったらしい。中学生がちょっとぐらい授業に出なかったからと言って、何も変わらない。給料泥棒は煙草の煙を輪のように吐き出しながら言った。うちの顧問はそういう人だと諦めているので、俺は何も言わなかった。

そのまま二人して少し黙っていたら、突風がふいて、彼のくたびれた白衣の裾を大きく膨らませた。なんだか卵みたいだ。そう揶揄したら、彼はにっこりと笑って、蔵、オムライスが食べたい、と簡潔にのたまった。つまりは、そういうことだろう。
素直に喜んでみせるほど大人でもないので、俺はため息ひとつついて、7時に部屋行きますとだけ返しておいた。
 
 


(お〜いらっしゃい)
(せめてテレビから目離して言えや)



***

オムライス食べたい→もちろん蔵が作ってね→今日家来てもいいよ
というひねくれた言い方するオサムとそれを瞬時に理解するひねくれもの蔵ノ介
 



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