唸るように低く響くベースの音が、沈む雨音に溶けていく。仁王がすきだと言った洋楽の曲を、彼の薄いみどりいろの小さな音楽プレーヤーで、イヤホンをわけあいながら聴く。明かりが落とされた夕方の教室は暗く、肌にひたりとなじむ湿度が心地よい。

仁王くん、なんじゃ柳生、雨ですね、寒いか、いいえ大丈夫ですよ。

柔らかで優しいふたりの声が、澄んだ静けさにぽたりぽたりと染みてゆく。
陳腐で使い古された言葉だが、こうしているとまるで世界に彼と自分しか存在していないようだと、柳生は繋いだ仁王の手の輪郭を、確かめるように親指でなぞりながら思う。

本当にそうであったらいい。
整然と並ぶ机、役割を果たさない蛍光灯、冷たいリノリウム、青白い空気、そしてむせかえるような秋の匂いを孕んだ、雨。
すべてが自分たちのためだけのものであれば。瞳を閉じていても見えるものなど、彼以外に在りはしないのだから。
明日の予定を立てることも、帰ろうと口にすることも、柳生には出来ない。いずれ来る別れの為に離れることなんて、尚更だ。

におうくん。

窓の外で一層雨が激しくなり、呼びかけ続けないと、触れ合っている筈の体温も、向られる微笑みも、儚く愛しい彼も、瞬きの刹那に消えてしまうのではないかと、柳生はふと不安に駆られた。


いつの間にか止まっていた重低音は、仁王の鼓動を探す柳生の耳には、届かなかった。


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