炎昼(叶)

 


蝉の鳴く声が聞こえる。


夏の暑さを助長するようなそれは、しかし風物詩だと思えば聞き入ってしまいそうだ。

炎昼




八月にふさわしい青空と、夏の匂いを運んでくる風。

そして身体をじわりと包む乾いた空気に、叶はうんざりしてその大きな瞳をゆっくりと閉じた。


叶がいる座敷にある木の大きな机の上には、麦茶の入ったグラスと(水滴が机にまで垂れ悲惨なことになっている)、長期休暇の課題が手付かずのまま散らばっている。

しかし当の叶はすでにやる気を無くし、長座布団の上で横になっていた。


(あー部活やりてぇな…廉にも会いたい)


閉じた瞼にぼんやりと浮かぶのはしばらく見ていない幼馴染みの笑顔で、叶は訳もなく深呼吸をした。

もやもやとした気分はこの夏のうだるような気候のせいなんかではなく、やりたいことはあるのに実行出来ないこの状況と、自分の情けなさのせいだった。


ざわざわと木々の葉擦れの音がする。

時折強い風が吹くと、冷涼とは言いがたいが気持ちのよい風が網戸から流れ込んできた。


だんだん睡魔が近付いてくるのを感じながら、叶はそれに抗わず、起きたら寮で自分と同じく暇を持て余しているであろう織田を誘ってキャッチボールでもしようと、思った。



夏の空は、まだ高い。



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