*だから髪は長いまま(♀静)
臨♀静
高校生
***
自分が嫌い。
媚びるようなやわらかい肌が嫌い。
なにもしないでも滲む甘い香りが嫌い。
最低な男を好きになる本能が嫌い。
女の自分が、嫌い。
「シズちゃん、また喧嘩?」
からん、
コンクリートに転がるどこの誰かも知らない数人の男のうち、一人が数分前まで手に握っていた細長い鉄のパイプを、靴先が少し擦れたローファーで戯れに弄る。
後ろから投げられた言葉は、いつものように無視をした。
嗚呼それにしても、やっぱり制服で喧嘩なんてするもんじゃない。
リボンだってスカートだって、人を殴るときにはただ邪魔なだけ。
わたしが女じゃなかったら、必要のない物たち。
ほんとうは風に揺れるこの長ったらしい髪だって、切ってしまいたい。
だけど。
「手、血が出てるよ?」
「何しに来たのよ馬鹿臨也」
「見学?観察?あ、やっぱシズちゃんが心配だから見に来ました」
「取って付けたようなこと言わないで。胸糞悪いからどっか行ってよ」
にやりと唇の端だけを持ち上げるように、歪んだ笑い方をする臨也。
いつの間にか横に並ぶようにして顔をのぞき込んで来たそれを降り払うように、腕を振るう。
「わっ…と。危ないなぁ」
「うるせぇな、消えろよ」
「シズちゃんってば女の子なんだから、もっとおしとやかにできないの?」
肩を竦め呆れたように言われ、喉がひきつる。
次の言葉が出てこない。
胸が、冷たく刺すように痛い。
「知…るかよ、うざい」
「ねぇシズちゃん」
伸びた前髪をグッと掴まれ、互いの息を肌で感じる程、顔を近付けられる。
細められた赤い瞳に、戸惑う自分の揺れる瞳が映る。
「可愛い態度じゃないと、好きになってあげないよ?」
かすれた声に、苛立つ言葉に、重くなる呼吸。
風のようにつかみ所の無い臨也の言葉を信じて、女の自分を捨て切れない自分が、嫌い。
だから髪は長いまま
素直じゃないこの心だけで足りないならもっと女の子になるから、ねぇ、好きになってよ
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