*シザーハンズ
※静雄と臨也の体質逆転
***
シザーハンズ
ぱしん、と軽く頬を打たれた。
臨也にしてみたらただ手を当てた、というだけの意識だったのかもしれないその行為は、実際空気をふわりとも揺らさず、裂かず、胸が付くほど、相手の息を肌で感じるほどに密着した俺と臨也の間にしか聞こえぬ乾いた音をたてるだけのものだった。
否、その筈だったのだ。
臨也が普通の人間であったのならば。
生憎と臨也は道路に建つ標識さえも引っこ抜いて振り回してしまうような異常な筋力をもった存在だったので、冒頭にある様にただ頬を打つというだけの行為でも俺は数メートルの距離を水平に吹っ飛ばされた。
そのせいで口の中は散々な状態だ。
少し歯を食いしばっただけでがりがりじゃりじゃりというあまり好ましくない感触を舌に与えているモノが何なのかなんて、気にしたくもない。
「あぁ静ちゃん、ごめん、ごめんね」
気色悪い猫なで声を出しながら俺に駆け寄る臨也に、熱くなる体温が知らせるのは、怒りとかそういう類の負の感情じゃなくて。
どくりどくり、心臓が脈打つ回数が増えるのを耳の後ろで感じる。
「首」
「え?」
「首貸せ」
「俺の?」
俺を立たせる為に臨也が差し出してきた、男とは思えぬ繊細な指をもつ綺麗な手を無視して、その黒い暗い目をじいと見つめながら言葉を積む。
臨也はきょとんとした間抜けな顔を晒しながらも、やがてすとんとしゃがみこんで地面に膝と両手をついて、俺に乗りかかるような体勢になった。
「こうでいいのかな」
うろうろと彷徨う視線にあえて答えは返さずに、日焼けのしていない白い白い臨也の首を俺の無骨な手で、ぎゅうと掴む。
ギリリと皮膚が鳴った。
しかし片手で首を絞めている為か臨也は若干苦しそうに顔をしかめてはいるが死の気配は微塵も無く、ましてや咳き込んだり酸素を求めてぱくぱくと口を無様に動かしたりなんかはしていなかった。
俺は数分間そんなことを考えながら臨也の首を締めていたが、そろそろ厭きてきたので最後に爪で皮膚に赤い線を引いて、白と赤の斑になった首から手をはなした。
「ん、シズちゃんどうしたのいきなり」
「アイジョウヒョウゲン」
「あぁ俺がシズちゃん吹っ飛ばしたから仕返しってこと?意外と可愛いことするんだね」
「何とでも言え、ばーか」
いつもと同じ軽口の応酬は、非日常の行為をぼんやりとしたものに変えてしまったのだけれど。
俺を優しく愛すことができない臨也には、丁度いい現実なのだろうと思った。
******
静雄が愛情表現って言ったのは結構本音です
臨也の首絞める静雄が書きたかった
臨也が原作の静雄並に力強いって設定すごく萌えると思う…
prev*next