*首輪だけじゃ満足できない
ラブレスパロ臨静
ちょっとメンタル弱い静雄
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「君が空白の戦闘機?」
トム先輩が部屋を出て十数分、静かに張り詰める空気を裂く涼やかな声が、脳を揺らした。
視線だけを後ろのドアに向ければ、自分と同じ年齢くらいの、端整な顔立ちの少年が微笑を浮かべ立っているのが見えた。
「…いつ入ってきたんだ」
「この部屋に足を踏み入れたのはたった今、君に声をかける6秒くらい前かな」
返事をしないで視線を窓の外の緑に移したら、硬い靴音が近付き、自分の座っている椅子のすぐ後部で止まった。
「平和島静雄。君はこれから、俺の戦闘機だ」
譜面に在る旋律を唯たどる様な声音に、弾かれたように少年を見上げる。
彼の言葉は、矛盾を含んでいた。
「俺はトム先輩の戦闘機だ!」
「それは違うよ、彼は君を所有する権利を放棄した。はじめから名前だって書いていないだろう?だから君を必要としている俺が、君を使うんだ」
「何で…!そんなことある訳がない!」
「彼は自分の戦闘機を見つけたんだよ。本物のパートナーを、ね」
告げられたそれは俺を酷く傷付けて、けれど心のどこか片隅では納得をしていた。
だって名前をもつ彼がずっと一緒にいてくれるなんて絵空事で、いつか現実ではこうなることを予感していたから。
「大丈夫。俺は君を捨てたりしないよ。例え本当の戦闘機が見つかっても」
俺は君に名前を与えることを、君を所有することを恐がったりしない。
彼はそう言った。
俺の髪から頬への輪郭をするりと撫ぜる彼の指はひたすらに優しいのに、その瞳は支配者の強さを孕んで俺を捕えて離さない。
甘受すべき現実の痛みに目を閉じて触れた彼の手は冷たくて、まるで俺の心のようだと思った。
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途中から静雄の一人称が自分から俺になっているのは感情の変化のせいです。
静雄は草灯
臨也は清明のイメージ
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