*はじまりの夜


人間×ヴァンピール
***




俺を殺したいほど憎む彼は、ヴァンピールらしい。因みに俺も彼が心底大嫌いだ。

だが彼は俺の血を飲まないと死んでしまうのだと言う。
何故だかそれは、余りに味気無いことのように思えた。


「吸血するの?」
「する」
「ふうん、この俺から?」
「あぁ」
「見返りは」
「俺の命以外に望むものをひとつ」
「へぇ、悪くない」

くく、と喉の奥で笑えば、とろけた金の瞳が僅かに細められた。
彼の陽に曝されない白い肌が、月光に照らされ暗闇にぼんやりと青く浮かんで見える。

「俺の望みかぁ…なんだろう。よくよく考えてみたら大抵のことは自分で何とか出来ちゃうしなぁ」
「今じゃなくてもいい。いつ何を欲しがって、それを与えても、お前が死ぬまで俺と共に在ることに変わりは無い」

言いながら彼は、俺の左足の親指をゆっくりと口に含んだ。
生温い粘膜のなかで、爬虫類のような肉質の舌に舐られる。

指先に鋭い痛みを感じた瞬間、自分の意識が黒く塗りつぶされていくのが分かった。
容赦無く奪われる体温に、冷静な思考が警鐘を鳴らしている。

他人の生を飲み下すことに必死な彼は、冷たくなる俺の身体に気付きもしない。

(あーやっぱ俺、シズちゃんのこと嫌いだわ…)

このさき一生、彼に叶えて欲しい望みなんて出来そうもない。

完全に意識が落ちる一瞬前、そんなことを思った。









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