*しずめの雨


 
高校生臨也と妖怪静雄(外見年齢12歳くらい)





臨也がその神社の前を通ったのは、偶然だった。

ホームルームが長引いて、やっと帰れると思ったところで、何の因果か小雨が降り出した。それで仕方なく、近道をして家に帰ることにしたのだ。

古く壮大な社と、相反するような鮮やかさを見せる朱色の鳥居。鬱蒼と茂る鎮守の森の木々からは、ぽたりぽたりと滴が垂れている。

臨也はふと、暗い木の影に何か動くものがあるのを見つけた。

(何だ…?)

音を立てないよう静かに近付くと、それが小さな人であることが分かった。
白い着物を着て、金の髪を雨に濡らした…幼児、であろうか。

しかし人間だと認めるには至らないことに臨也は気付く。何故ならばその者には、人のものではない"耳"や"尻尾"があったからだ。

「…妖怪?」

眉をひそめ、思わず言葉を発する。
影はびくりと肩を震わせ、おそるおそる、といった様子で臨也の方へ振り向いた。

「に、人間がどうしてここに…この森は結界で守られてるんだぞ」
「俺に言われても」

臨也を見つめるそれは、人間で言えば小学校高学年か中学生くらいの幼さで、髪より少し茶色が混ざった金色の尖った獣の耳と、ふさふさと柔らかそうな尻尾をもっていた。

「狐?」
「妖狐だ!」

何のこだわりがあるのかは知らないが、耳を指差しながら尋ねると、尻尾の毛をぶわっと逆立てて怒鳴られた。

妖狐などという非現実的なものに対する興味はあまり無かったので、臨也は「まぁどっちでもいいや」と呟き早々にその場を去ろうとした。この出会いが自分にとって有益なものだとも思えないし、関わるだけ無駄であろうと判断したのだ。

「ま、待て!」
「何だよ面倒臭いなぁ…煩わしいのは嫌いなんだ」
「お前このまま帰れると思ってるのか!?いま鎮守の森を出たら大人の妖狐に殺されるぞ!」
「じゃあ君が何とかしてよ」
「なっなんで俺が!」
「元はと言えば君が俺に姿を見せたのがいけないんだ。君がここに居なきゃ俺はこの森に入らなかったのに」
「うっ」
「しっかり守れよ」

こんな子どものような外見の、しかも妖怪に、何を言っているんだという思いはあった。
しかし臨也にとって重要なことはこの雨を避けて早く帰宅することで、妖怪がどうのこうのということには関わりを持ちたくなかった。

ため息をついて、足早に森を出る。
小さな妖狐はすこし逡巡した後、裸足のまま臨也の隣に並んだ。

「何も襲ってこないじゃないか。嘘?」
「嘘なんか吐かねぇよ!俺が大人の妖狐より強いから、あいつら近寄らないんだ」

妖狐の寂しげに伏せられた目も、臨也に何か感慨を抱かせることは無かった。

そうして歩いている間に、臨也の家へとたどり着く。

「じゃ、ばいばい」
「あっ!な、名前くらい教えろ!」
「は?なんで?」
「いいだろ!」
「…臨也」
「いざや、か…おい、いざや!また会いに来いよ!」
「嫌だね」

臨也が苛立たしげに言った最後の一言を聞く前に、小さな妖は走り去ってしまっていて。


面倒なことにならなければいいと、鈍く頭痛がするのを感じながら臨也は思った。



***
噛み合わない会話
偽者なのはデフォ
続くかもしれない









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