Amelie
臨也は週末になると、決まってレンタルビデオ店で数本の映画のDVDを借りてくる。
それらは時にうんざりするような内容のラヴ・ロマンスだったり、思わず目を瞑るようなどろどろのスプラッタだったり、休日の昼には似つかわしくないホラーだったりと、日によって実に様々だった。
そして、今日は。
「フランス映画…」
「そう。有名なやつだけど、今まで観たこと無かったんだよね」
「これ恋愛映画じゃねぇか…何で手前とそんなもん観なきゃなんねぇんだ気持ち悪ぃ」
「まぁまぁそう言わずに」
何が面白いのか笑顔で軽やかに言う臨也に、静雄は気に入りの毛足の長いソファに沈み込むと、眉間にくっきりとした皺を刻んで不快感を顕にした。
淡々と、時は過ぎる。
映画はパリを舞台としていて、人とのコミュニケーションが上手く取れない、孤独で想像力豊かな可憐な女性が主人公だった。
画面の中で、彼女の不揃いな黒髪が肩の上ではらはらと踊る。
静雄はそれを、ただ見つめた。
「ふふ、静ちゃん、嫌そうだなぁ」
薄暗い室内に、臨也の声が落ちる。
薄いカーテンをひいただけでは外界の情景が遮断されることは無いが、それでも光は遮られる。
しかし本当に暗い、と静雄が不思議に思い見た窓の外では、いつの間にか雨が降り出していた。
「この主人公は、ちょっと静ちゃんに似てる」
ベランダになおざりに置かれたパキラの葉に、ぽたり、ぽたりと雨粒が伝う。
静雄は思わず、言葉を返した。
「似てねぇよ」
「自分じゃ分からないかもしれないけど、よく似てるよ。特に、変な趣味をもったおかしな男に惚れるところとか、そっくりだ」
湿度を持った空気に、臨也の声が残らず溶ける。
静雄は嘲笑をその顔に浮かべ、赤い部屋で一人寂しそうにすすり泣く主人公を見つめた。
「俺は手前の、そういうところが嫌いになれねぇな」
来客を告げるチャイムが、部屋に響く。
臨也は機嫌良く、喉の奥で笑った。
「嘘つきは嫌われるよ、静ちゃん」
静雄はそれを、美しく冷ややかな瞳で一蹴する。
「お互い様だろ」
誰も見る者がいなくなった画面の中では、クライマックスを迎えた物語の主人公が、愛する男の腕に抱かれ一際華やかな笑顔を咲かせていた。
*
静雄はアメリ観たことあるから恋愛モノだなんて言ったんです
あらやだ可愛い
そして静雄がアメリに似てると言った臨也は完全に惚れた欲目ですね^^
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